2015年 03月 29日
「それぞれ」は each でいいですか?
よく受ける質問があるんです。
もしかしたら読んでくださっている皆さんの中にも、疑問に思ってる方がいらっしゃるかなと思いました。
それは、日本語の「それぞれ」に対応する英語は何か?というもの。
「それぞれ」を和英辞典で調べてみると、必ず載っているのが each ですね。
ほかには respectively なんて単語もあります。
先日も会社の後輩から聞かれました。
彼女曰く「「それぞれ」を英語にすると each ですよね。respectively も使えますよね。」
ええ、これと同じ質問を何回受けたかわかりません。
それぞれ= each と方程式のように思ってらっしゃる方がとても多いんです。
まるで条件反射のように。(>_<)
その度に私はこう答えています。
「常にそうなるとは限りません。each や respectively を使えるときもありますが、使えないときが多いです。」
こんなことをいうと「辞書には書いてあるんですけど...」と言われます。
確かに、簡単な英文だったら each で間に合うこともあります。
例)
ボールをそれぞれ3個ずつ three balls each
それぞれに対する個々の計画 an individual plan for each
これはこれで正しいフレーズですよね。しかし、英作文も翻訳も「相手に意図を理解してもらうこと」を常に考えながら英文を作らなくてはならないのは言わずもがな。日本語に「それぞれ」と書いてあるからといって、常に each を使って正確な英文が組み立てられるとは限りません。
ということで、つい最近あった例をあげてみますね。
取引先のメーカーさんからの英文のリライトの依頼でした。テレビの取説の中に出てくる文です。
まず、「それぞれ」を使わないこの文から...
(1) HDMI1 および HDMI2 端子に 4K 映像機器を1台接続します。
1台の映像機器からケーブルが2本出ていて、それを HDMI1 と HDMI2 端子に接続すると言う意味です。これに対して、依頼主は以下のような英文を書かれていました。
●修正前 Before revised
Connect one 4K video device to HDMI1 and HDMI2 terminals.
正しく書かれていますね。ただ、この場合、HDMI1 と HDMI2 の両方の端子にということを明確にするために、both を入れて、to を HDMI2 の前にも使う方がよいと思います。
●修正後 After revised
Connect one 4K video device both to HDMI1 and to HDMI2 terminals.
さて、今度は「それぞれ」を使った文です。翻訳元の日本語はこれでした。
(2) HDMI1 および HDMI2 端子に 4K 映像機器をそれぞれ1台ずつ接続します。
これに対する英文が自信がないということでした。以下の文を書かれていました。
●修正前 Before revised
Connect one 4K video device each to HDMI1 and HDMI2 terminal.
日本語の「それぞれ」があるので、each を使ったようです。推測するに、この方は each を使いたいんだけど、どこに入れたらよいものかと思われたんでしょう。適当にこのへんに入れてみましたという感じの文です。さて、英文としてはどうでしょうか...よさそうにも見えますが、たぶん通じない可能性が高いと思います。
(1) と意味が変わるのは、映像機器が2台あるということです。ケーブルがそれぞれの映像機器から出ています。
上の英文でちょっとまずいなと思うのは、one 4K video device に each では数が合いません。each は2つ以上あるという前提があってのみ使えます。上の英文では、映像機器が2台あるということが明確ではないんですね。
それぞれ = each という思いこみからいったん離れて、元の日本語が何を言いたいのかを咀嚼してみましょう。
(2) の日本文は別の表現にすると、こんな風に書けます。
(2)' 1台の 4K 映像機器を HDMI1 端子に、もう1台の 4K 映像機器を HDMI2 端子に接続します。
こう考えるとわかりやすい英文が書けそうです。
この場合は one… the other... を使ったらどうでしょうか。以下、作ってみました。
●修正後 After revised
Connect one 4K video device to HDMI1 and the other to HDMI2 terminal.
いかがでしょうか。おそらくこれで誤解のない英文になったのではと思います。
ここで the other としたのは、映像機器が2台あるという前提に解したからです。映像機器が複数あって、その中の2台という意味であれば、the other ではなく another とすべきだと思います。
今回のは一例ですが、英作文に行き詰ったら、別の方向からアプローチできないかと考えてみる習慣をつけてみると新たな発想が生まれることがあります。そんなときはとってもうれしい。
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取説というのはエンドユーザーが読むわけですから、ユーザーにわかりにくい取説は劣悪なものと評価されます。私が翻訳の仕事をやり始めた頃は、まず日本語ありきで、日本語を一字一句、直訳していました。出来上がったものをネィティブに読んでもらうと「わけがわからない」と言われたことが何度もあります。
英作文や翻訳をする際に、1つの日本語の単語やフレーズには、どの英単語やフレーズが対応するのかと考えがちですが、1対1で対応できないケースが極めて多いです。すべてにおいて、りんごが apple、 みかんが orange だったらどんなに簡単かと思いますが実際はそうではない。どんなに翻訳ソフトが高機能になっても完璧なものが作れないのは、そのあたりに理由はあるんでしょうね。
ある言語を他の言語に置きかえるという作業をする過程で大切なこと。日本語を英語にする場合であれば、この日本語が伝えたいことは何かを考えること、咀嚼すること。それにつきるかなと思っています。
ここにもやはり読む人への思いやりが反映されるように思います。
ではまた。