water にも the は付くわね

今日は会社の同僚のA子ちゃんからのお悩み。。。いやいや質問が来ました。

彼女は大手メーカーに出向していて、洗濯機とか乾燥機の取説を作っている部門で働いています。メーカーさんも最近は白物家電の輸出に力を入れていて、ヨーロッパやアジア向け仕様のものを多く出すようになりました。そういった国々に輸出するには、まず英語の取説を固めることが必要になります。というのはフランスに輸出する場合は、英語からフランス語に翻訳するからなんですね。日本語からフランス語に翻訳することは、まずありません。すべての言語は英語が基準になるため、英語取説の精度が非常に重要になってきます。

となると、メーカーの方々の英語取説に対する目はかなり厳しくなってくるようで、A子ちゃんもメーカーの設計技師の方から取説の英語表現について、質問を受けることも多くなりました。TOEICは900以上の彼女なので英語は得意の方ですが、突っ込んだ質問が来たときは、私にメールしてきます。今日はその内容を皆さんとシェアしたいと思います。

彼女が設計から受けた質問は
「同じ内容なのに water the があるのとないのがあるのは何故か?」というものでした。

洗濯機の本体に記載されている注意書きはこうです。
①Do not use water hotter than 60℃.
「60℃以上の湯を使わないでください。」

このwater の前には定冠詞の the はありません。

一方、英語取説の安全注意文にはこう書かれています。
②Do not use the water hotter than 60℃.

さて、これはどのように考えたらよいでしょう?

文としての正誤という観点で言えば、どちらも正しいですね。

water は物質名詞なので、不定冠詞の a は付きません。よって無冠詞で使う場合は多いと言えます。しかし、the が付くケースももちろんあります。たとえば、目の前に water がある場合や、そこに water があると仮定した場合、また、一度出てきた water について再度言及する場合などは当然 the water です。

さて上記の①と②はどうかというと、ここでの water は「60℃以上の湯であればとにかく使うな」ということが言いたいわけなので、無冠詞の water がしっくりきます。the water とすると何か特定の water を指しているように思われ、文意に沿いません。一般的には①を使うと思います。

なので私は、この場合は両方とも①の the なしがよいと返事しました。

しかし the water とは絶対言わないかというとそうは言い切れません。
ここには書く人の思惑がからんできます。

本体の注意書きに the water の文があったとします。
②Do not use the water hotter than 60℃.

この文は、ユーザーが60℃以上のお湯を使おうとしているという光景を想定して書いたイメージです。つまり「あなたは今、60℃以上のお湯を使おうとしているけど、それはだめだよ。」と言っている感じです。

たとえばこんなとき ― 60℃以上の湯を洗濯槽に入れようとしていた人が、本体に書かれていた注意書きをふと見たときに②のthe waterの文であったとしたら、その状況にぴったりですね。そういったことが大いに起こりえるだろうと思われるときには、the water の文を使うと思います。

ただ、この場合一般的に考えて、洗濯するときは普通は水かぬるま湯ですから、ここでは the water はそぐわないように思います。

逆に、the water が取説の中で頻繁に出てくる箇所があります。それは、洗濯機を使う手順の箇所です。取説本文ではイラストを用いて手順を説明することが多く、そうすることでユーザーの実感がわきやすくなるように配慮されています。そして、ユーザーの目の前に water があるということを想定して書きます。初めて使うユーザーは、その指示に従えばよいのだなと理解し、自分が使っている蛇口の水と取説の水を無意識のうちに結びつけます。だから、手順の記載箇所では the water になる場合が多いのです。

このように考えると、冠詞というのは、書き手の恣意や思惑がかなりからんでくるものなのではないかと思えますね。

英語に関して言えば、私の中で一番難しいのはやっぱり冠詞。

冠詞の使い方には当然、基本的なルールがあるわけですが、書き手の心理が反映される場合が多いことも忘れてはなりません。

冠詞を制覇しようなんて無理。
都度、検討していくことが大切だと思っています。

045.gif
Commented by リアム at 2021-09-20 18:14 x
water にthe がつく 具体例をちょうど探していたところで、この記事を拝見できて嬉しかったです。ありがとうございます。
冠詞 ならびに限定詞(決定詞)は、本当に難しくて自分で書く際はいつも間違えます。読む分にはそこまで困るような事はないのですが、それでも冠詞の感覚をもっと掴んでいれば、文章がもっと深く味わえるようになるのに……と日々思っています。
冠詞が、書き手ならびに話し手 の主観によって決定される部分が多々あり、この文章ならば必ずこの冠詞! というふうに一意に決まらない場合があるというのは、ますます複雑で興味深いです。
Commented by ladysatin at 2021-09-21 20:21
リアムさん
コメントをありがとうございます。
お役に立ててうれしいです。

冠詞については基本的な規則だけでは片付けられないものが多数あります。個人の主観も関係しますが、慣例で付けたり付けなかったりすることもあるので、本当に奥が深いです。コツコツと知識を増やしていかなくてはなりません。その過程も楽しみながら学習していけたらいいですね。
Commented by peemanhm at 2022-10-13 17:51 x
読ませていただきました。Many insects live in water.(実践ロイヤル英文法別冊英作文のための暗記用例文300の003)について先日、なぜtheがつかないのか聞かれて返事したばかりでした。私の説明は、この場合は「特定の水ではないのでtheがつかない」でした。これであっていると思います。
また、一方例文102のWho left the water running in the upstairs bathtub?の場合は特定の場所の水のことを言っているのでtheがつく、例文122のIf there were no water, the trees would not be green.の場合は自分が見渡す範囲の木々のことを言っているので、theがつく、というのが私の説明ですが、どう思われますか?ご意見いただければ幸甚です。いずれにしても、私も英語で一番難しいのは冠詞です。これは一生征服不可能と思っていますが、それでも勉強しています。
Commented by ladysatin at 2022-10-14 13:29
peemanhm さん
コメントをありがとうございます。

実践ロイヤル英文法の例文に確かに書かれていますね。
003 についてはご指摘の通りだと思います。
102 についても running in the upstairs bathtub で修飾されている特定の水でのことですね。
122 の the trees は「自分が見渡す範囲の木々」というよりも、全ての木々、つまり all the trees の意味ではないかと思いました。

冠詞については私自身も今なお難しさを痛感しています。
参考までに、過去に読んだ本の中で役に立った本があるのでご紹介します。
「技術英語の冠詞活用入門」(原田豊太郎著 日刊工業新聞社)という本なのですが、この本を読んで、冠詞に関する7割くらいの疑問が解決できました。技術英語に限らず冠詞の勉強をする方にはお勧めしています。ご参考になれば幸いです。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by ladysatin | 2013-08-09 22:56 | 冠詞_Article | Comments(4)