Hidden Subject

言葉を扱う仕事をしていると、ちょっとした表現に敏感になることがあります。

最近日本語について思ったことを少し。

日本語は主語を省略することが許容されています。たとえば、「今日、友達と喧嘩した」、「どこに行きたい?」、「おなかすいた」など、主語は「私は」「あなたは」ですが、主語を入れて話す必要がなければ入れませんよね。

それとは別に、主語の省略が可能であるという日本語の性質が、話者の発言に影響を与える場合があるのではないか、と思うことがあります。

主語を省略することで、行為者である主語が隠れることになります。もちろん聞き手には、主語が誰であるかはわかるわけですが、言葉として明示されない分、主語はオブラートに包まれ、半透明の状態になります。つまり、行為の主体が誰なのかという露骨さが軽減されるのではないかと思うのです。その結果として、大胆な発言を容易にする側面があるのではないでしょうか。

つい最近のことです。衆議院選挙での小池さんの排除発言については、皆さんも記憶に新しいでしょう。

小池さんはこう言いました。
「排除されないということはございませんで、排除いたします」

この発言がきっかけで希望の党は失速したといわれています。選挙の惨敗を受けて 小池さんは、「排除する」とした自らの発言について、「きつい言葉だったと思う」と反省の弁を述べました。それほど排除発言によるダメージが大きかったということなのでしょう。

さて、この発言の経緯ですが、記者の「公認申請すれば排除されない」という受動態の言葉を受けてのものでした。だから小池さんは、最初に「排除されないということはございませんで」と同じく受動態で返しました。受動態は行為者をぼかす効果があります。

そのあとに、小池さんはわざわざ一人称の能動態に変え、「排除いたします」と言いました。あえて能動態にすることで、自分自身が毅然と対応することを、印象付けたかったのかもしれませんが、ここで私が注目したのは、「私は排除いたします」ではなくて「排除いたします」だったことです。

この時の流れでとっさに出た発言だったのだろうと思うのですが、「排除」のようなインパクトの強い言葉を一人称の能動態で言い切ることは、いくらかの勇気を必要とするように思うのです。そこで「私は」という主語を入れるか入れないかで、話者の発言のしやすさが変わってくるのではないか、と考えてみました。

つまり、「排除いたします」の主語が「私は」であることは明確ではあるものの、発話する必要がないことで、小池さんの口から抵抗感なくとっさに出たのではないかということです。前述で、「大胆な発言を容易にする側面があるのではないか」と書いたのはこのことでした。

もちろん、話者の都合で「私は排除いたします」の代わりに「排除いたします」と言ったからといって、主語は「私は」であることは聞き手には明らかです。小池さんが「排除いたします」と言った瞬間に、聞き手は主語を察知するのですから、結果として強権的なメッセージとして多くの聞き手は受け止めてしまったというのが実態であったでしょう。

ただ、「私は」が表面に表れる表れないにかかわらず、聞き手が同じ印象をもつのかと言えば、それは違うように思います。主語である「私は」を明示することで、話者の断固とした決意が感じられるとともに、より強権的な印象を聞き手に植え付けるのではないかと思います。したがってニュアンスは大きく異なるだろうと考えます。

今回の小池さんの排除発言がメディアで取り上げられるたびに、なぜこうもさらっと「排除いたします」とおっしゃったのかなと思っていました。色々考えていくうちに、日本語における主語の省略もひとつの原因として考えられるかもと思った次第です。それをまとめておきたいと思い、この記事を書いたというわけでした。

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さて、もう少し考えたことがあります。

主語のあるなしで、ニュアンスが変わるだろうと述べましたが、英語ではどうでしょうか。

「私は排除いたします」を英訳すると、I will exclude them. になります。では、「排除いたします」はどうなるでしょう。英語では基本的に主語を省略することができないので、「排除いたします」にも同じ訳、すなわち I will exclude them. をつけるしかなさそうです。ということは、日本語におけるニュアンスの違いを英語に反映することはできなさそうに思えます。せっかく「私は」を入れずに「排除いたします」と言ったのに、英訳は「私は排除いたします」の訳になってしまいますね。

「排除されないということはございませんで、排除いたします」
It’s not that they will not be excluded. I will exclude them.

優秀な同時通訳者はもっと良い訳をされるでしょうが、拙訳で失礼します。このように、英語は主語を要求する言葉なので “I” は省略できません。省略できないことにより、排除する主体が言葉の裏に隠れることはできず、明示されてしまうのです。この “I” のインパクトは exclude という強い言葉を伴うことにより、聞き手に強烈なインパクトを与えます。I will exclude them. に “I” が存在する以上、意味としては「排除いたします」より「私は排除いたします」により近くなるように思います。

では、英語で “I” を明示しないで表現したいときはどうするかというと、受動態を使うしかなさそうです。このケースだと They will be excluded. です。It’s not that they will not be excluded. に続けて They will be excluded. はありかもしれません。この流れはスムーズです。

もっと柔かく言いたかったら、後半は excluded を使わなくてもすみますね。たとえば I’d say they will be. のように続けると自然な気がします。

It’s not that they will not be excluded. I’d say they will be.
「排除されないということはございませんで、そうなるでしょう」

I’d say they will be. に「そうなるでしょう」という訳をつけてみました。「そうなるでしょう」の中には「排除される」という受動態の情報が存在しますが、「排除の主体は誰か」という情報が無責任に葬り去られます。さらに「排除」という言葉はこの際省略することで、露骨さが軽減されています。省略した方がかえって自然。

小池さんは「排除いたします」なんて言わずに、「そうなるでしょう」と言えばよかったのかもしれませんね。言葉遊びをするつもりはありませんが、同じ意図を表現するにしても、選ぶ言葉遣いで聞き手に与える印象はかなり変わってくるように思います。

最後にうまくまとめたかったですが、深みにはまってしまいました。まだ考え中です。
アップしようかどうか迷ったけど、一旦アップしてみました。...119.png

# by ladysatin | 2017-11-18 01:31 | 英語と私といろいろ | Comments(15)

昨日、Tom Petty の訃報が飛び込んできました。
またロック界のスターがいなくなってしまいましたね。

Tom Petty & The Heartbreakers というバンドは日本ではあんまり人気が出なかったのですが、アメリカではスーパースターです。グラミー賞も受賞したと思います。飾りけのないストレートなロックバンドでした。私はベストアルバムを1枚持っているくらいなので、大ファンとまではいかないのですが、今日は、Tom Petty のことを書こうと思います。というのも私が一番好きな女性アーティストと深い関係があるから。

その女性アーティストとは Fleetwood Mac Stevie Nicks です。これ前にも書いたことがあるんですよ。下の記事を読んでいただくと、私が Stevie をいかに好きかわかっていただけると思います。ちょっと恥ずかしいくらいですが、Stevie Nicks の話を始めたら徹夜になっちゃうねってくらい好きです。

Tom と Stevie の接点は、Stevie が1981年に出した Bella Donna という初ソロアルバムでした。その中の Stop Draggin’ My Heart Around(邦題「嘆きの天使」)は、Tom Petty と、Heartbreakers のギタリスト Mike Cambell によるものなのです。この曲は Stevie の代表曲の一つで、私も大好きな曲です。

この曲をきっかけに Tom と Stevie はアーティストとしての交流を深め、今日に至るまで親友であり続けたのです。だから、Stevie はTom の家族と同じくらいに、今 Tom の死を悲しんでいると思います。

今日はリスニングの練習として、Stevie が Tom について語っているものを題材として選んだのですが、実はこれ、1年ほど前にブログの記事としてアップしようとして取り組んでいたものでした。しかし、ディクテーションをしながら、1箇所どうしても意味不明のところがあって、置き去りにしていたのです。

Tom の訃報を受けた瞬間に、この未完の記事を思い出し、もう一度トライしてアップすることにしました。Stevie の Tom への想いがつまっているものだから。そして、今でなければ意味がないと思いました。



Stevie Nicks: Stop Draggin' My Heart Around (With Audio Commentary)


今回の題材のビデオです。このビデオの元は、1981年の Stop Draggin’ My Heart Around の PV です。Stevie と Tom がデュエットしています。この PV を見ながら Stevie が当時を振り返って解説しています。ちょうど10年前の2007年に作られたビデオです。Stevie がいかに Tom のことを大切にしていたかがわかります。最後に言った "Thank you, Tom. I love you, Tom." の言葉を、Stevie は今まさに、かみしめているのではないかと思うのです。

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1) 0:03
So, the really crazy thing about this video is, right now in 2007, I have just come off the road with Tom Petty & The Heartbreakers. For 4 months for Tom’s 30th anniversary, 27 shows I got to be on stage with the Heartbreakers, a real honorary Heartbreaker.

まず、このビデオについては実にクレイジーなことがあるの。2007年の今、私、Tom Petty & The Heartbreakers のツアーを抜けたばかりなの。4か月の間に27回のショー。Tom の30周年記念のショーだったんだけど、Heartbreakers と一緒にステージに立ってたの。本当に名誉な Heartbreaker だったわ。

2) 0:24
And this video was my first foray into being an honorary Heartbreaker. I was just reminded that this was the first video that we really ever did. Um…there was certainly video done with Fleetwood Mac, but that was always shot live. So this was the first real MTV Ask Video.

そしてこのビデオは、私が名誉なる Heartbreaker となる最初の一歩だったのよ。思い出したわ。私たちが一緒にやった最初のビデオだったわね。Fleetwood Mac のときも、もちろんビデオは撮ったけど、全部ライブの映像ばかりだったわ。だから、このビデオが、本当の意味で最初の MTV 用のビデオになるわね。

3) 0:49
I didn’t know Tom too well when we did this. So I’m looking at us right now going…let’s see, we’ve been friends for since 1980. It’s 2007, but right here we hardly knew each other. And I’m also thinking that he could’ve changed history if he’d just asked me to be in the Heartbreakers then. And we could’ve avoided all the rest of the problems with Fleetwood Mac.

このとき、私まだ Tom のことをよく知らなかったの。だから今の私達を見ると…そうね、1980年からずっと友達なのよね。今は2007年だけど、このビデオのときはお互いのことをほとんど知らなかったわ。思うんだけど、もし彼があのとき私に、Heartbreakers に入ってくれって言ってたなら、歴史が変わっていたかもしれないわ。そしたらそれ以降に Fleetwood Mac でおきた問題全部を避けることだってできてたと思うのよ(笑)。

4) 1:19
OK, um…this video was hysterical because like I said, we’ve never done a real video before and that pushes you into ‘you would be an actress’ which I always said even as a little girl I never wanted to be an actress because I didn’t think I would be a good actress.

さてと、このビデオは笑えるわよ。さっき言ったけど、本物のビデオってやつをそれまで作ったことがなかったの。でも(ビデオの中で)女優にならなくちゃいけない。私はいつも言ってたんだけど、子供の時すら女優になりたいなんて思わなかったわ。だっていい女優になれるなんて思えなかったし。

5) 1:36
So trying to pretend your feelings certain way usually doesn’t fly, but Tom and I were like doing a really good job pretending here.

自分の感情を何らかの方法で装おうとしても、普通はうまくいかないわ。でも、Tom と私はこのビデオの中でそれをうまいことやってるのよ。

6) 1:49
The words were good, too. “And you buckle with the weight of the word”, you know, it’s like we were kind of we were already on a journey to the rock’n’roll world. I don’t know if we were ready for what was to come over the next 30 years, but we’re still alive and we made it.

歌詞もよかったわ。“And you buckle with the weight of the word (そして言葉の重みにあなたは押しつぶされる)”
私たちはすでに、ロックンロールの世界へ旅しているみたいだった。その後の30年の中で起こることに準備が出来ていたかどうか。それは私にはわからない。でも二人ともまだ生きてる。そして私たちはやり遂げたんだわ。

7) 2:07
Right there, it’s an interesting little thing. See dozen jewels earring things stuck to the sides of my head. Every time I would twirled, they would hit me in the face. And it would upset me so much we had to stop filming and start again at that point. They were braided into my hair so we couldn’t get them out.

このビデオにはちょっと面白いことがあるの。見て、私の頭の両側に、宝石やらイヤリングやらたくさんへばりついてるでしょ。私が回るたびに、それが私の顔を直撃するのよ。すごく頭にきちゃって、その箇所になると撮影をストップしてやり直さなくてはならなかった。その飾り物は私の髪に編みこまれていたから、取り外すことができなかったのよ。

8) 2:36
As you can see my lip syncing, it’s the worst lip syncing I ever did. It’s good that it was the first video I ever did because I have an excuse. That’s like I know your song. I didn’t know this song, and it’s pretty obvious I didn’t know it. So I just start all this frill with Tom. And people won’t notice the horrible mistakes I’m making lip syncing.

私のリップシンクを見るとわかると思うけど、今までやった中で最悪のリップシンクだっわ。初めてのビデオでよかったわ。だって言い訳できるもの。あなたの歌知ってますって感じだけど、私この歌知らなかったのよ。見たら丸わかりよ。私は気取ってリップシンクをしたわ。Tom とね。でもリップシンクしてるときに、私ったら恐ろしい間違いをしたんだけど、誰も気づかないの(笑)。

9) 3:03
I totally didn’t know the words, but what I did know was that something big was happening here. And I knew in my heart of hearts that Tom Petty and Stevie Nick would be friends forever.

全く歌詞を知らなくてね(笑)。でもわかってたことがあった。それは何だか大きなことがここで起きているって。そして、心の底からわかったの。Tom Petty と Stevie Nicks は永遠に友達でい続けるだろうって。

10) 3:21
And if there is anything really to say about time, real love doesn’t die because Tom and I are still really really dear friends.

時間について言うことがあるとすれば、本物の愛は死なないということね。だって、Tom と私は今もなお本物の大切な親友だから。

11) 3:31
And I haven’t had as much fun on the road as I had this summer with him, both of us are now 50s, as I ever had the road ever. So what we had here never changed, and never stopped, and just continues now.

今年の夏、彼と一緒に過ごしたけど、こんな楽しいツアーは初めてだったわ。二人とも今50代だけど、これまでのツアーの中で本当に今回が一番。だから、このビデオで得たものは、決して変わらなかったし、止まることもなかったということね。今も続いているのよ。

Thank you, Tom. I love you, Tom.

ありがとう Tom 愛しています Tom…

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終わり

大体は聞き取れたとのですが、どうしても意味不明だったところとがありました。0:43頃の "So this was the first real MTV Ask Video." のところです。私には "Ask" としか聞こえないのですが、そうなると意味が分かりません。何か意味があるんでしょうか。それとも違う単語なのでしょうか。わかった方は教えて頂けるとうれしいです。その他小さな間違いがあると思います。「ここ間違ってるよ」って気付いたところはお知らせください。すぐ訂正しますね。

★追記 2017年10月18日
 上のビデオが視聴できなくなってる。
 なんでやね~ん 145.png

Stevie Nicks のファンの方のコメントお待ちしています。


# by ladysatin | 2017-10-04 21:21 | Music & English_3 | Comments(7)