Crossroads

いつも読んでくださっている皆さん
ありがとうございます。

このブログを始めたのは2013年3月でした。
もう2年と8か月になります。

これまで週に一度の更新というペースで記事を書いてきましたが、ここへきて少し Slow Down しそうです。年内は定期的な更新はできないかもしれません。

実は、お引越しをすることになり、長年住み慣れた土地を離れることになりました。その準備が大変で、ちょっとブログへの時間がとれていません。年内も更新していくつもりですが、少し間が空くと思います。個人のブログですので、わざわざお知らせするほどのことでもないのですが、いつも来て下さる皆さんにはお知らせしておきたく、書かかせていただいております。

お引越しの理由はここでは書けないのですが、私にとってはとても大切なことで、今、決断をしなくては一生後悔するだろうと思ってのことでした。それが決まって現在の会社を退職することになりました。というのも、通勤圏外になってしまったからです。

会社の上司は、私に絶大な信頼をおいてくださっていたので、退職のことを告げることはとてもつらいことでした。しかし、大変ありがたいことに上司が配慮してくださり、在宅勤務を提案してくださいました。今、その方向で私の業務の調整をしていただいています。

このような事情でしばらくブログは不定期になりますが、どうかこれからも遊びに来てくださいね。

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これから先、書きたいと思っている記事はたくさんあるのですが、その中の一部をご紹介します。

●experience が同格の that 節をとれないのは何故か?
●He worries more than is necessary. の構造をどう説明する?
●ジャズの名曲 You’d be so nice to come home to は tough 構文なのか?

英語の勉強をしていると疑問に思うことが次から次へと出てきます。
これからも皆さんと色んなこと共有していきたいです。
by ladysatin | 2015-10-10 21:51 | 英語と私といろいろ | Comments(16)

会社で翻訳業務をおこなっていると、色んなことがおこります。

つい最近のことですが、ある大手メーカーの取説のご担当者より、「至急翻訳してほしい文がある」と電話で依頼を受けました。午前10時のことです。

ご担当者曰く「今日の会議で、モニターの取扱いについての注意文を入れることになりました。2文だけなんですが、急ぎでお願いしたいんです。11時までにできますか?」

このような緊急の翻訳依頼は日常茶飯事です。そんな大した内容ではないだろうと思い、私は「承知しました。」とお返事しました。

その後メールで送付されてきた文がこれでした。
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OLED特有の美しい映像をご覧いただくため、自動的に XXXX が動作しており、動作中はLEDが橙色点滅(取扱説明書のP32参照)します。この期間中は、画面を拭くような作業を避けるようにお願いします。
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う~ん。これ結構難しいかも。タイムリミットは1時間です。
さて、これをどう料理しましょうか...。

以下は、私が翻訳するにあたり実際にとったアプローチです。翻訳の仕事に興味のある方に読んでいただけるとうれしいです。

まず、この文はテレビの取説に追加で入れる文言なので、その土台となる英文取説はあるのでしょう。しかし、私が訳したものではないので、その英文取説を私は見たことがありません。

実はこの世界では、ある翻訳者が訳したものに対して、他の翻訳者が書き加えるということが頻繁におこります。部分翻訳というものです。ということは、翻訳者によって言い回しが異なる場合が多々あるわけです。それは取説の品質という観点から言えば、当然のことながら望ましいことではありません。

それを回避するために、通常は、追加文言の挿入箇所にマーキング指示してある取説をPDFで送ってもらいます。そして翻訳者は、追加文言の前後の言い回しを確認し、自分ではない他の翻訳者の言い回しに合わせて翻訳をします。

例えば見出しで「画像を保存する」という文言を翻訳しなければならない場合、いくつかの書き方があります。動詞を原形にして Save the image もありだし、動名詞を使って Saving the image も考えられます。その場合、他のページに類似表現がないか探します。すると「画像を削除する」を訳したものであろう Deleting the image という見出しがすでにあったとしたら、Saving the image と訳さなくてはなりません。これが「他の翻訳者の言い回しに合わせる」ということです。

元に戻って、今回の依頼でも挿入箇所を指示したPDFを送ってもらおうと思いましたが、事情によりそれができませんでした。ならば仕方がありません。もらった日本文の情報のみから英文を作ります。

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OLED特有の美しい映像をご覧いただくため、自動的に XXXX が動作しており、動作中はLEDが橙色点滅(取扱説明書のP32参照)します。この期間中は、画面を拭くような作業を避けるようにお願いします。
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さて、この日本語の文章は2文からなります。しかし、ひとつ目の文を英文にすると長くなりすぎるようです。そこで、私はこれを2個に分けることにしました。すると、以下のように3個のパートで英文を作ることになります。

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①OLED特有の美しい映像をご覧いただくため、自動的に XXXX が動作しています。
②動作中はLEDが橙色点滅(取扱説明書のP32参照)します。
③この期間中は、画面を拭くような作業を避けるようにお願いします。

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ではいきます。

①OLED特有の美しい映像をご覧いただくため、自動的に XXXX が動作しています。

この日本語を読んだ瞬間、ちょっぴり「うっ」となりました。というのも最初の「美しい映像をご覧いただくため、自動的に XXXX が動作して」という文言に、違和感を覚えたからなんです。

日本語を言いかえると「XXXX が動作するのは美しい映像をご覧いただくためなのだ」となります。しかし、この論理は少しばかり飛躍しすぎではないかと私は思ったのです。XXXX というのは機能なのですが、美しい映像には欠かせないものです。もちろん最終的には「美しい映像をご覧いただく」ことが目的ですが、装置に備わっているさまざまな機能というのは、まず直接的な目的があります。それを端折ることはできないと考えました。

そこで、「XXXX が動作するのは何のためか?」と考えたときに、「美しい映像を作るため」が直接の目的だと私は解釈しました。それが達成できてから初めて、お客様に美しい映像をご覧いただけるということです。

日英翻訳をやり始めてわかったことなのですが、原文を作る人(この場合はこの日本語を書いた人)の中には、因果関係を深く考えずに文章を書く人がいます。それに気づかずに日本語に書かれた字面に忠実に訳した場合、おかしな英文になることもしばしばです。

そうならないためには、「この文は何が言いたいのか」をまず翻訳者は見極めなくてはなりません。読むのはネィティブのお客様です。ネィティブのお客様が読んで違和感のない文にする必要があります。そこで私はこう書きました。

●The XXXX function automatically operates to produce OLED-specific beautiful images.

「ご覧いただくため」の文言はここには反映されていません。しかし「to produce 作るため」とすることで、結果として「ご覧いただくため」の意味を入れることができました。

ところで produce を deliver にしようかとも考えました。produce は「作る」という意味ですが、deliver は「送る、配信する」という意味があります。悩んだ末に produce にしたのですが、deliver でもよかったかなとも思っています。

②動作中はLEDが橙色点滅(取扱説明書のP32参照)します。
この日本語は問題ありません。素直に訳します。

●During operation, the LED blinks orange (see Operating Instructions, page 32).


「点滅する」をここでは blink で表現しましたが、flash を使うこともあります。blink の方が多く使われているようです。

③この期間中は、画面を拭くような作業を避けるようにお願いします。
この日本語も要注意です。「画面を拭くような作業を避ける」の意味はわかりますが、これを英語にするのはかなり難しいですね。

まず「作業」をどう訳しましょう。operation あたりが一般用語ですが、ここでは大げさすぎる表現です。work を使うわけにもいきません。ということで、ここでも「この文は何が言いたいのか」を考えてみました。

「画面を拭くような作業を避ける」のは何のためなんでしょうか?

「画面を拭く」という行為は「画面にストレスを与える」ことです。それをやっちゃうと XXXX 機能が正常に動作しなくなる可能性があるんだと読めます。もっと具体的には「ストレスを与える」はこの場合「圧力をかける」という意味になります。画面を拭くと圧力がかかりますよね。

このように考えると③の文は「この期間中は、画面を拭くなどをして画面に圧力をかけることを避けてください。」とパラフレーズできます。そこで私はこう書きました。

●Avoid putting pressure on the screen by wiping its surface, etc.

「この期間中は」のところは、前文の「動作中は」からの流れを受けているところなので、くどさを回避するため訳しませんでした。

まとめるとこのようになりました。
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OLED特有の美しい映像をご覧いただくため、自動的にXXXX が動作しており、動作中はLEDが橙色点滅(取扱説明書のP32参照)します。この期間中は、画面を拭くような作業を避けるようにお願いします。

The XXXX function automatically operates to produce OLED-specific beautiful images. During operation, the LED blinks orange (see Operating Instructions, page 32). Avoid putting pressure on the screen by wiping its surface, etc.

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日本語から英語に翻訳するときに、日本語の文字の情報が網羅されているかどうかということ - それは、大学入試の英作文では必須です。なので、今回の翻訳を大学入試で採点されたら減点されると思います。「ご覧いただくため」が訳されていない、また③では Avoid putting pressure に相当する文言は原文の中にないということですね。

しかし、翻訳は英作文ではありません。言わんとする本質を読む人に伝えることが翻訳の目的です。ここは大学入試の英作文とは全く異なる点です。

翻訳する際に日本語をそのまま英語にできないと思ったら、まず、この日本語は一体何が言いたい文章なのかをよく考えてみます。すると、別のアプローチが見えてきます。表に見えている日本語に執着しているとそれが見えてきません。頭を柔らかくするってとても大切なことだと思います。

その一方で、このように自分は解釈してこの英文を作ったが、拡大解釈ではないのだろうかという客観的な視点も必要です。これは翻訳者にどこまで裁量が認められるのかということに関係します。

最後に、翻訳者として私が常に大切にしていることがあります。

それは「なぜこのように訳したのか」と問われたときに、その理由を明確に答えることができるようにしておくということです。これは顧客との信頼関係を築く上で、非常に重要なことだと思っています。自分が翻訳した言葉に責任を持つということでもあります。

今日は、日英翻訳で発想を転換することについて書きました。

ではまた。001.gif
by ladysatin | 2015-10-03 15:22 | 日英 Translation | Comments(8)