訳詞の世界~Numb – Linkin Park(和訳&考察)

90年代以降にデビューしたミュージシャンはほとんど知りません。80年代までは、新しいミュージシャンが出てくると大体チェックしていたものですが、次第に新しいものからは遠ざかってしまったようです。

Linkin Park も全く知らないバンドでした。つい最近、ボーカルの方がお亡くなりになったことが、ニュースで大きく取り上げられているのを見て、初めて知ったのです。

とても人気のあるバンドとのことなので、早速 YouTube で何曲か聴いてみました。

メロディが美しい曲が多いですね。私みたいな辛口のおばさんの心もしっかり掴んでくれる音楽でした。ボーカルの Chester Bennington の声も素晴らしいです。ということで、私も遅ればせながらファンになりました。彼が生きていたときに、このバンドに巡り合いたかったです。

Chester は何故、自死したのでしょう。
愛する妻と子を残して…。
まだ41歳だったそうですね。
富も名声も手にした彼にあった心の闇とは何だったのでしょう。
May his soul rest in peace.

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今回の訳詞は Numb です。この曲は Linkin Park の代表曲のようですね。
良い曲だなと思って、是非訳してみたいと思いました。詞が素晴らしいんです。

このPV を見るだけで、Chester は繊細な人だったんだろうなってわかるような気がします。
本当に残念すぎます。



親や教師が求める自分と、なりたい自分とのギャップ
自分の identity とは何なのか
青春の日々の苦しみ
自分にしかわからない苦しみ

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Numb

Written by Mike Shinoda, Joseph Hahn, Chester Charles Bennington,
Brad Delson, Dave Farrell and Robert G. Bourdon

I'm tired of being what you want me to be
Feeling so faithless, lost under the surface
Don't know what you're expecting of me
Put under the pressure of walking in your shoes

うんざりなんだ
あなたが望む僕でいることに
神様なんていない
心が途方にくれているんだ
あなたが僕に何を期待しているのかなんて知らないけど
あなたと同じように生きるなんて荷が重すぎる

Caught in the undertow, just caught in the undertow
Every step that I take is another mistake to you
Caught in the undertow, just caught in the undertow

逆流が僕を捕らえる
逆流から僕は逃れられないでいる

僕が一歩を踏み出すたびに
あなたはそれを否定するんだ

I've become so numb, I can't feel you there
Become so tired, so much more aware
I'm becoming this, all I want to do
Is be more like me and be less like you

僕は何も感じなくなってしまった
あなたの存在も感じない
嫌気がさしてしまって
以前より一層気付く
僕はこうなるんだと
もっと自分らしくなりたい
あなたのようでなく
僕の望みはこれだけなんだ

Can't you see that you're smothering me?
Holding too tightly, afraid to lose control?
'Cause everything that you thought I would be
Has fallen apart right in front of you

僕を息苦しくしてるってわからないの?
そんなに僕をしっかり縛って
コントロールできなくなるって恐れてるのかい?
あなたが望む僕のすべてが
あなたの目の前で粉々に崩れてしまったからって

Caught in the undertow, just caught in the undertow
Every step that I take is another mistake to you
Caught in the undertow, just caught in the undertow
And every second I waste is more than I can take

逆流が僕を捕らえる
逆流から僕は逃れられないでいる

僕が一歩を踏み出すたびに
あなたはそれを否定するんだ

逆流が僕を捕らえる
逆流から僕は逃れられないでいる

僕に許される時間よりも無駄にする時間の方が多いなんて

I've become so numb, I can't feel you there
Become so tired, so much more aware
I'm becoming this, all I want to do
Is be more like me and be less like you

僕は何も感じなくなってしまった
あなたの存在も感じない
嫌気がさしてしまって
以前より一層気付く
僕はこうなるんだと
もっと自分らしくなりたい
あなたのようでなく
僕の望みはこれだけなんだ

And I know, I may end up failing too
But I know, you were just like me
With someone disappointed in you

わかってる
結局は僕も理解してもらえないんだろう
だけど知ってるよ
あなたも僕と同じように
誰かを失望させていたんだって


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訳詞は以上です。

ブログの初期の頃は、訳詞をするときは直訳が多かったです。意訳は「逃げ」なんじゃないかと思っていたのです。それが次第に、意訳も自分の中で受け入れることができるようになりました。これは私にとっての大きな変化です。私の中では直訳が基本なのは変わらないのですが、英文の構造を把握し、直訳で意味を正確にとらえた上での意訳は「逃げ」ではないと思えるようになりました。

ただ、意訳した場合は、何故そのように訳したかを出来る限り書くことにしています。今回の Numb についても、直訳では日本語が変になる箇所がいくつかあり、私なりに言い換えています。その箇所について少し書きたいと思います。あと言葉選びで気をつけたことなど。

★I'm tired of being what you want me to be - うんざりなんだ あなたが望む僕でいることに

tired の訳はいつも悩みます。tired は精神的疲労と肉体的疲労のどちらにも使いますが、ここで使われている be tired of は精神的疲労ですね。疲労を表す一般的な語は「疲れた」ですから、ここでも「疲れた」という訳でもいいと思います。私はもう少し踏み込んで「うんざりなんだ」という訳をつけました。

●Collins COBUILD に以下の記載がありました。
If you are tired of something, you do not want it to continue because you are bored of it or unhappy with it.

何かに飽きている、あるいは不満に思っているため、それが続いてほしくないときに、be tired of を使うということです。「続いてほしくない」という強いニュアンスを出したくて「うんざりなんだ」に落ち着きました。

余談ですが、私が中学生のときは 《be tired of 飽きて be tired with 疲れて》 と習いました。しかし、現代英語語法辞典(三省堂)P1107によると、今では肉体的疲労には be tired with はほとんど使われず、be tired from が普通らしいです。

★Feeling so faithless - 神様なんていない

この箇所はむずかしかったです。辞書をひくと faithless にはいくつか意味があることがわかります。ジーニアス英和大辞典には「①不誠実な、不貞な ②(人・道具などが)当てにならない ③宗教心[信念]のない」という3つの定義があります。しかし、Feeling so faithless に上の①②③を当てはめてみても、直訳だとどれもしっくりきません。ただ、③の意味で使われているのだろうとは思いました。

そこで faith の宗教的な意味合いについて調べてみると、Cambridge Dictionaryには strong belief in God or a particular religion とありました。

ということは Feeling so faithless は「神への信仰がなくなったと感じる」「神を信じることができないと感じる」という意味にとれそうです。

さらにネットを調べると feel faithless はごく普通に使われている表現だとわかりました。以下の記載を見つけました。

I feel so faithless, like God has abandoned me.
Do you feel faithless, like God has given up you?

上は一例ですが、「神に捨てられた、見放されたという思い」が feel faithless のようです。私の「神様なんていない」という訳は、このようないきさつをへてつけたものです。

★Put under the pressure of walking in your shoes - あなたと同じように生きるなんて荷が重すぎる

この箇所を直訳すると「あなたと同じ経験をするという重圧を受けている」となります。冒頭の Put は過去分詞。walk in someone’s shoes は「(人)の立場を体験する、(人)と同じ体験をする」という意味の idiom です。この箇所での意味は、おそらく「両親と同じような職業(地位)を基準に、それに恥じない行動をする」という意味ではないかと解釈しました。

★Caught in the undertow, just caught in the undertow - 逆流が僕を捕らえる 逆流から僕は逃れられないでいる

undertow を「逆流」としましたが、「(岸から返す)引き波 rip current」のことです。自分は岸に向かって泳いでいるのに、逆流に捕まって身動きが取れないということだと思います。その具体的な内容が次にあります。

★Every step that I take is another mistake to you
- 僕が一歩を踏み出すたびにあなたはそれを否定するんだ

直訳は「僕が踏み出すあらゆる一歩は、あなたにとっての別の過ちだ」となります。日本語としてはいまひとつですね。平たく言えば「僕がすることなすことあなたは気に入らないんでしょ」ってことだと思います。

★I'm becoming this - 僕はこうなるんだと

この箇所なんですが By becoming this と書かれているサイトがいくつかあったので、オリジナルとコンサートのバージョンなどをいくつか聴いてみたのです。やはり By ではなくて I’m と発音されているようです。その前の so much more aware とつながっているのでしょう。

(I’m) so much more aware (that) I’m becoming this
僕はこうなるんだとより一層気付く

「こうなるんだ」とは次のフレーズ All I want to do is be more like me and be less like you です。

ここで more like me と less like you とあります。この more と less は同じ大きさを示していると思います。つまり 減った分だけ増えるということ。たとえば、自分全体を100としたときに、僕らしい自分が今は10で、あなたの望む自分が90であるとします。これが more like me = 30になったら、less like you = 70になるということです(あなたの望む自分が20減って、僕らしい自分が20増えた)。彼の望みは more like me = 100, less like you = 0 の状態になることなんだと思います。

★And every second I waste is more than I can take - 僕に許される時間よりも無駄にする時間の方が多いなんて

直訳は「僕が無駄にする一秒一秒は、僕がかけることのできる一秒一秒より多い」となります。何のことを言っているのかわかりにくいですね。私見ですが、「このままでいけば、僕が自分の意志で使うことのできる時間より、無駄にする時間の方が多くなってしまう」ということかなと思いました。他の解釈があるかもしれません。

★And I know, I may end up failing too - わかってる 結局は僕も理解してもらえないんだろう

この箇所は「僕も結局は失敗するのかもしれないさ」と直訳していました。ただ、そうなると too は何故あるんだろうと疑問に思ったのです。too があることで「僕は」ではなくて「僕も」になります。他にも失敗する人がいたことを示唆します。誰のことを言っているのかよくわかりません。そして次のフレーズにうまくつながらないような気がします。

そこで、「わかってる 結局は僕も理解してもらえないんだろう」に変えました。fail のあとに省略されているものがあると考えました。省略せずに書くとこんな感じです。

I may end up failing too (in making you understand that I want to be myself).
直訳 - 僕が僕自身でありたいとあなたに理解してもらうことに「僕も」失敗するかもしれない

ここで「僕も too」としたのは、彼と同じ10代の若者の多くは同じ悩みを抱えているとの思いがあるからではないかと思いました。こう考えると次のフレーズ(以下の文)への展開が自然です。

★But I know, you were just like me with someone disappointed in you - だけど知ってるよ あなたも僕と同じように誰かを失望させていたんだって

上で「結局は僕も理解してもらえないかもしれない」と述べました。そのあとで「でも、あなただって僕のように、あなたの親を失望させていたって僕は知っているんだ」とつながるのです。

以上で Numb の考察は終わります。
考察はすべて私見ですので、ひとつの見方と思っていただければと思います。

お読みくださった皆様、ありがとうございました。182.png

Commented by nory at 2017-08-23 02:03 x
リンキン大好きだったんですけどね…
病気、事故、自然な老衰、以外の亡くなり方は遺された遺族や友人やファンにとって「うーん…」にはなりますよね。

ピート・バーンズも来日コンサートは殆ど行ってました。
彼は彼で色々と自身の中に折り合いが付かない何かがあったのかもしれないですが、なんとも言えないところです。
周囲がいくら美男子!めっちゃイケメンと思ってもご本人がどう思われるか?はわからないですものね…

私も洋楽ネット検索で貴姐ブログに辿り着いてしまったラッキー☆の一人です。

優先順位の上位からぼちぼちゆるゆる~ボチユル(笑)自分の頭がゆる過ぎてメルトダウンしかけてますが、そうですねえ、神様なんていませんよ…いや、居ますね…居る!と思い込んでほしいです若い頃の知り合いで自殺予告電話、留守電に吹き込んだ人の両親から散々咎められ凹んだのを思い出してしまいました。

人は他人を救えないと思うんですけどね。
すびばせん、ちょっと陰気なコメントになってしまいました!次回は調子こいてみまーすwww
Commented by ladysatin at 2017-08-23 14:37
nory さん
私は Linkin Park のこと全く知らなかったんですよ。Chester がお亡くなりになってから、こんなに素敵なバンドだったんだと知るなんて、皮肉ですね。日本でも何回もコンサートしているんでしょうね。生で見てみたかったです。

Pete Burns が好きだったんですね。整形する前の彼は本当にキレイでしたね。
私は Boy George 派でした。

ただ今私は estivation 中ですが、たまにプチ復帰しますので、またよろしくお願いします。(^_^)
Commented by Southern Man at 2017-09-02 18:57 x
お元気ですか。小休止中と知っていながら習慣のように開いています。
新作の〈訳詞の世界〉、ありがとうございます。豊富な知識と幅広い調査から生まれる暢達した筆致は、少しぐらい間が空いても錆びつくことはないですね。今回、読ませて頂いて次の箇所に目が止まりました。
“私の中では直訳が基本なのは変わらないのですが、英文の構造を把握し、直訳で意味を正確にとらえた上での意訳は「逃げ」ではないと思えるようになりました”
物事の捉え方は深くなるにつれて観察→考察→推察→洞察と変化していく、と何かの本で読んだ覚えがあります。もともと英語の泰斗だと敬愛していましたが、ついに〈訳詞の世界〉で紡がれる言葉は、一つひとつのセンテンスに人生観を仮託した洞察の領域に入っていくのですね。ますますこのブログが愉しくなりました。寡作で構いません。これまでと同じように、これからも末永く愛読させてもらいます。

今回のお薦め曲は私が夏によく聴くミュージシャンの一人、Neil Youngの「Long May You Run(放題:太陽への旅路)」です。
 With your chrome heart shining in the sun 
 Long may you run
レイドバックな雰囲気が暑い時季にピッタリなのもありますが、繰り返されるこの歌詞が大好きです。オリジナルのThe Stills-Young Band(1976)の演奏ではなくて、少しスローテンポの「Unplugged(1993)」でお聴き下さい。

いつまでも色褪せない心を太陽に輝かせながら、ladysatinさんのブログが滔々と続いていきますように。――そう願っています。
Commented by ladysatin at 2017-09-03 23:22
Southern Man さん
ありがとうございます。ladysatin は元気です。(^^)
お休み中ですが、コメントはいつでも大歓迎です。

ブログを4年ほど続けていますが、私自身、英語に対する考え方が変わってきたように感じます。その一つが訳詞に対する姿勢です。初期の頃は意訳に拒否反応がありました。意訳すれば日本語はわかりやすくなるのですが、読む人から「意味がわからなかったから適当に意訳したんだろう」と思われるのじゃないかと恐れていたのです。でもそこまで神経質にならなくてもいいかなと思えるようになりました。今回の訳詞も意訳をしていますが、そういう訳にした理由を書けば理解していただけるだろうと思いやってみることにしました。ただし、今の私に意訳できるのは、訳詞のように娯楽として楽しめるものが限度のようです。

いつも良い曲のご紹介ありがとうございます。Long May You Run を早速、聴かせていただきました。夏の暑い日に清涼感をもたらしてくれるような曲ですね。ネットで調べたら、Neil の愛車と恋人の二つの意味があるとのことでした。素敵な曲ですね。Neil Young といえば、私も一枚だけ Harvest を持っています。Heart of Gold が大好きです。いつかこの曲をも訳してみたいです。

これからもブログは少しずつ更新していけたらと思います。
I will keep running. Thank you.
Commented by うちむきべくとる at 2017-09-21 08:56 x
こんにちわ。お邪魔します。

チェスターの死をこちらで知りました。ショックを受けました。チェスターのボーカルが好きだったので、年齢を重ねて彼の曲がどんなふうに変わっていくのか、追いかけていくことができないのはとても残念です。

訳詞ありがとうございました。
初めて読み通したとき、僕は、最後のtooのところ、親の世代に向けたメッセージだと感じました。
Commented by ladysatin at 2017-09-21 20:49
うちむきべくとるさん
コメントをありがとうございます。

チェスターのファンの方からのコメント、とてもうれしいです。私はチェスターの死のニュースで Linkin Park を知り、つい最近ファンになったばかりです。Numb って本当に良い曲ですね。この2か月の間にたぶん100回以上聴いています。too のところが「親の世代に向けたメッセージ」という解釈、なるほどと思いました。自分の道は自分で決めなさいという親もいますが、我が子に自分の理想を押し付けてしまう親もいます。子供の幸せを願ってのことなのでしょうけれど、それは単なる親のエゴなのかもしれません。
by ladysatin | 2017-08-20 20:33 | Music & English_2 | Comments(6)