Otherwise

皆さんがお持ちの電化製品には、どれにでも取扱説明書がついていると思います。

取説をめくると、まず「安全上のご注意」が記載されていますね。製品によって内容は様々ですが、4ページくらい割いてあるものもあります。読んでます?たぶんほとんどの方は、「安全上のご注意」は飛ばして、使い方のページを読まれると思います。

「濡れた手で触るな」とか「熱くなったら電源を切る」とか、まあ当たり前でしょって思う注意文が延々と書かれていて、あまり読む気になれませんよね。でもあれってメーカー側には記載義務があるんですね。「安全上のご注意」が記載されていないと、「製品欠陥」の扱いを受け、製造物責任法=PL法(Product Liability Law)に抵触してしまう可能性があるんです。

その「安全上のご注意」ですが、もちろん英語バージョンもあります。英語では Safety Precautions が一般的な呼び方です。取説の翻訳では、この Safety Precautions の中身を訳することも多いです。生死にかかわる内容もあるので、心して正確に訳さないといけません。

今日はその中からちょっとだけ、私が訳する場合のこだわりについてお話ししたいと思います。

日本語で例えばこんな警告文をよくみます。
●付属のACアダプターを必ず使用してください。感電のおそれがあります。

これを英文にします。
●Be sure to use the supplied AC adapter. Otherwise, an electric shock may occur.

単語の選び方は色々あります。occur を result にしてもいし、supplied は included でもかまいません。

ここで注意してほしいのは 二つ目の文の頭にある Otherwise です。この場合の otherwise は「さもなくば、さもないと、そうしないと」のような意味です。日本語は「感電のおそれがあります。」とあり、「さもないと」という表現はありませんが、英訳する場合は、裏にある「さもないと」を読み取って、otherwise で表現するというわけです。

ジーニアス英和大辞典 otherwise の2番目の用法より引用
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[接続詞的に] さもなければ (or else);もしそうでなければ (if not) 《♦ (1) A が起らなければ B は起る [らない] だろうという場合に用いる。(2) 通例節の初めで用いる;関係詞節では助動詞の後または節の終りで用いる》

例文)
Help your partner whenever and whatever you can. Otherwise his or her stress will become your own.
できるかぎりいつでもどんな事でもパートナーの手助けをしなさい。さもないと、その人のストレスが自分のストレスになりますよ。
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最初の取説の例文をもう少し見ます。
●Be sure to use the supplied AC adapter. Otherwise, an electric shock may occur.

この文の otherwise は use the supplied AC adapter を受けているように見えます。
つまり、「付属のACアダプターを使うということ → さもないと、感電するかもしれないよ」という展開です。

さて、ここからが問題。

次に否定の命令を使った文を作ります。
●傷んだ電源コードを使わないでください。感電の恐れがあります。

これを otherwise を使って英文を作ります。
●Do not use a damaged power cord. Otherwise, an electric shock may occur.

この英文は正しいですか?

otherwise は「さもないと」ですよね。肯定の命令文に続く「さもないと」の「さも」は、上述の英文では、「付属のACアダプターを使うこと」になります。ということは、否定の命令文に続く「さもないと」の「さも」は、「傷んだ電源コードを使わないこと」になってしまいます。

それがどうしたと言われそうですが、実は私、以前このことを考えていて、頭がこんがらがったことがあるのです。検索すると、否定の命令のあとにも otherwise は普通に使われています。でも本当に otherwise を否定の命令のあとに使えるのか、その時はまだ確信がもてませんでした。というのは、否定文のあとに otherwise を使うと「使わないのでないならば」と二重否定になってしまうからです。

ネィティブは、一回否定して、もう一回否定して、結論は肯定の意味にとるというプロセスを、頭の中で処理することに違和感はないのだろうかと疑問に思ったのです(今も疑問に思ってる)。考え方としては実にまどろっこしいと思うのです。

しかし、調べた結果、否定文のあとの otherwise の用例が載っている辞書がありました。
研究社 新英和中辞典より引用します。
-------------------------------------------------------------
[命令文などの後で接続詞的に] さもなければ

例文)
Don't be naughty, otherwise you'll get a spanking.
いたずらはやめなさい。さもないとお尻をたたきますよ。
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はい、辞書に載っているということは、やはり使えるんでしょうね。
ということは、otherwise の訳「さもないと」の「さも」は、否定語も含めていると考えられますね。

●Do not use a damaged power cord. Otherwise, an electric shock may occur.
つまり、この英文における otherwise は「傷んだ電源コードを使わないのでないならば」という意味の二重否定だということです。二重否定は肯定の意味だから、「傷んだ電源コードを使うのであれば」が言いたいことです。

「そんなこと知ってたよ」という人もいるかもしれませんが、私はまだ納得していないのです。

実は私、否定の命令文のあとは、otherwise を絶対に使わない主義なのです。

その理由は、二重否定になってしまうことに強い抵抗があるから。

じゃあどうする?そこで…

上記の英文は、以下のように書き換えることができます。
●Do not use a damaged power cord. Doing so may cause an electric shock.

私は、Otherwise の代わりに、Doing so を使います。Doing so は「そうすると」の意味です。受けているのは use a damaged power cord です。否定語の not は受けていません。そして副詞の otherwise と違い、Doing so は主語をなしています。だから文自体も構造が変わってきます。

Otherwise, an electric shock may occur. (an electric shock は主語)
Doing so may cause an electric shock. (an electric shock は目的語)


この二文は意味は同じですが、私は二重否定の形をとらない Doing so の形の方が、英文として優れていると思っています。だから、否定の命令の後には、絶対に otherwise を使わないんです。ここは私の中のお約束でありこだわりです。

でもね。あるときお客様から、「肯定文のときと同じく否定文でも otherwise を使ってもらえませんかね?」って翻訳を返されたことがあるんですよ。

その時の私の反応。
「otherwise を使ってもいいですよ。ただし、それは私の翻訳ではなくなってしまいます。私はその訳文には責任をもつことはできかねますがよろしいでしょうか。」

するとお客様はこうおっしゃいました。
「ええっ。そうなんですか。いや、そこまで強い希望ではないので、そのままでいいです。」

一翻訳者の分際で偉そうなことを言っていると思われるかもしれません。しかし、私はプロとして自分の仕事に誇りをもっているので、簡単にお客様の要望に従うわけにはいかないのです。私が納品するものには、「自信をもってお使いください」という気持ちを込めています。

ちょっとした表現の違いで、どっちを使ってもいいという考え方もあります。だけど、私は言葉にこだわりたい。なぜ、この単語を使ったのか、なぜこの表現にしたのか。プロとして仕事をしている以上、すべてに答えられなければならないと思っています。

これから先もずっとその気持ちを持ち続けていたいです。
Commented by Ataron at 2016-09-03 01:17
始めまして、大変興味深い内容が多いですね。 勉強になります。 あっ、ボケ防止になります。
Commented by ladysatin at 2016-09-03 13:51
Ataron さん
はじめまして。コメントをありがとうございます。

Ataron さんのブログ拝見しました。写真がすごくきれいですね。ブログスキンのアレンジのカテゴリは、とても勉強になります。私も少しだけスキンを編集して使っています。でもほとんど知識はないので四苦八苦です。読ませていただいて勉強します。(^_^)

ブログ更新は不定期ですが、今後ともよろしくお願いいたします。
Commented by ただの大学生 at 2016-09-03 17:29 x
satinさん
こんにちは

英訳の際のこだわりって人それぞれあるもんなんですね
小説でもやっぱり著者の言い回しの癖とかありますもんね

ちょっと話がそれるんですけど質問があります

Whitney Houstonの One Moment In Time
という曲の2フレーズ目と言えばいいんですかね?

I want to be a day to give the best of me.
の訳とI want to be の構文?
がしっくりこないです

もし時間があるのならば教えてもらえないでしょうか?
Commented by ladysatin at 2016-09-04 12:42
ただの大学生さん
こんにちは。

Whitney Houston がお好きですか。One Moment In Time という曲は知りませんでした。

I want to be a day to give the best of me を直訳すると、「私は最高の私を与えてくれる一日になりたい」となり、意味をなしませんね。

歌詞を読んでみたのですが、I want to be a day to give the best of me の前に Each day I live がありました。

Each day I live
I want to be a day to give the best of me

これでわかりました。Each day I live は want の目的語で、それが前に出た形なのでしょう。
元の形はこれ → I want each day I live to be a day to give the best of me

意味は「私は、私が生きる毎日が、最高の私を引き出してくれる日になってほしい」

以下の文と同じ形です。
I want my son to be a doctor. 私は息子に医者になってほしい。

この構文を SVO と考えるか SVOC と考えるか諸説ありますが、私は SVOC の第五文型という考え方を支持しています。あと目的語を文頭に出すことは通常はしませんが、メロディに乗せるには Each day I live をかたまりにする必要があったのかもしれないですね。

参考になれば幸いです。
Commented by ただの大学生 at 2016-09-04 17:07 x
satinさん

返信ありがとうございます
each day i live
が目的語だったんですね
確かに元の文に直したら普通のよく見る文でした


ありがとうございます
Commented by ladysatin at 2016-09-04 21:46
You are welcome. 解決できてよかった。^^
Commented by Smily Oh yeah! at 2016-09-15 03:41 x
You really point out the important matters on English,including this otherwise topic.
Reading between the lines is necessary for Japanese,when we put our mother language into English,like your explanation of this agenda.
I’m a Japanease guy.
Commented by ladysatin at 2016-09-15 20:54
Hi Smily Oh yeah!
Thank you for your comment. I’m glad you support my explanation. I totally agree that reading between the lines is important when we translate our language to another, and also it is true the other way round.

I thought your mother language was English, but you are Japanese. How beautiful the way you write English.

Have a nice day♪
Commented by 小石 at 2017-01-19 02:28 x
楽しく読ませていただいています。
Otherwiseについては、新約聖書の、いわゆる「豚に真珠」のくだりに、Matthew 7:6 Don't give what is holy to dogs or throw your pearls to pigs. Otherwise, they will trample them and then tear you to. (GOD'S WORD® Translation)とありますので、否定分のあとにotherwiseを使うのは、間違いとはいえませんが、Lady Satinさんが、書かれておられるように、否定の否定になる感じですね。
たとえば、
Don't tease the dog like that, otherwise it will bite you.

Don't tease the dog like that, or it will bite you.と注意深いネイティブはするようです。
私は、時間的制約もあって、あまり、こういのは、深く考えずに仕事をやっつけていくほうですが、書かれていることを読むと、勉強になります。
Commented by 小石 at 2017-01-19 02:49 x
「otherwise を使ってもいいですよ。ただし、それは私の翻訳ではなくなってしまいます。私はその訳文には責任をもつことはできかねますがよろしいでしょうか。」というのは、素晴らしい。
私は、優柔不断なので、「はあ、じゃあ、まあ、お好きなように」となっちゃいます。
なぜかというと「じゃあ、他の部分は君は完璧な自信のある訳文なのだな?責任を持ってくれるな?」とか言われるのが.....。
ある翻訳会社の営業社員いわく「翻訳なんてのは、ケチをつけようと思えばいくらでもつけることができる」

ちなみに、わたしは自分の翻訳に常に100%の自信は、正直なところないのです。及第点であるとは思いますが。もっと、もっといい翻訳ができないかなと、いつも思っています。で、人に、「翻訳者としてやっていく秘訣は?」と聞かれますと、「100%の自信を持たないことです」とまことに頼りないことを言ってしまいます。
まあ、結構、単純なミスをしますし(というか、英語の文法、語法で間違うことは、あまりなく、単純なことほど(数字の打ち間違いとか)あるんですねえ、性格的に、おおざっぱだからかもしれません。だから、私は翻訳者はできてもチェッカーは無理ですね。特に、他の翻訳者が訳したものをチェックするのは、一番苦手で。できるだけ原文を生かして最小限のチェックにとどめています。
Commented by ladysatin at 2017-01-19 22:03
小石さん
この記事も読んでくださってありがとうございます。

私って納得できないことははっきり言うタイプです。でもこの記事のように、私に一度確認してくれる場合はよい方で、納品したあとに、勝手に書き換えられる場合もあります。その時は仕方がないですね。

私も100%の自信はないです。世の中には自分より優れた人が多くいると思っていますし、知識として知らないこともたくさんあります。ただ、一つだけ気を付けているのは、聞かれたときに、何故、この訳にしたのかを常に説明できるようでありたいということです。自分が選ぶ言葉や表現には、理由がありますでしょ。それが言えることは大切なことではないかと思っております。
by ladysatin | 2016-09-02 13:49 | 語法_English Usage | Comments(11)