Is this a typo?

今日は辞書にまつわるお話です。

まずその前準備からいきますね。

be a long way off という表現はご存じでしょうか。

よく出てくる表現なのですが、英辞郎からの説明を引用しますね。

●be a long way off
遠い所にある、遠く離れている、遠方にある、前途遼遠である、まだまだ先の話だ、まだずっと先のことだ、~どころではない

例文1)
The future seems a long way off [to go] right now.
現時点では、その未来はまだまだ先のようだ。

still を使った表現もあります。

●be still a long way off
〔主語の場所は〕まだ遠い[ずっと先である]、〔主語の事柄は〕まだかなり[ずっと]先の話[こと]である

例文2)
Although it can be said that the death penalty has been suspended here, it would seem the actual abolition of the system is still a long way off.
死刑停止状態ともいえる日本ですが、死刑制度の廃止には、まだ長い時間がかかりそうです。

ということで、be a long way off の意味と使い方についておさらいしました。

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ここから本題に入ります。最近受けたおもしろい質問です。

a long way off を使った例文でこんな英文が辞書に載っていたらしいです。
We were a long way off being grandparents.

そしてこれに対する日本語訳はこれでした。
我々が祖父母になるのはまだまだ先である。

あらっ...?
皆様いかがでしょうか?
この日本語訳は正しい?正しくない?

何か時制が...変?

そう。質問してこられた方の疑問は、were に対して「である」の訳になるのは何故なんでしょうということだったんですね。

were は普通に考えて過去だから「だった」になるべきです。なのにそうではない。もしかして仮定法かなんかの用法かとも思ったらしいのですが、そうでもなさそう。ということでどう考えてもわからず聞いてこられたんです。

私は答えました – 和訳のミスでしょう (~_~)

英文が were であれば日本語訳は「だった」しか考えられないです。
日本語が「である」なら英文は are ですよね。もちろん。

質問した方は「やっぱりそうですよね」とおっしゃったのですが、なんだか腑に落ちない様子。

おっと、聞き忘れた。「その辞書ってなに?」と聞くと「ウィズダム英和辞典 第3版(三省堂)」とのこと。

そこで、気になったので先日、本屋さんに行ってこの目で確かめました。

う~む...書いてありますねぇ...やっぱり。

ウィズダムをお持ちの方は way を調べて見てください。2127ページにあります。

これっていわゆる誤植なんでしょうか?
ちょっと調べてみようということで、ウィズダム英和辞典の HP を見てみました。

そこでわかったことはウィズダム英和辞典はコーパスを使って編纂されているということでした。
→ http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/dicts/english/wisdom_ej3/sp/corpus.html

上記のリンク先に書いてあるように、コーパスとは「(特定の種類・作家の文書[資料]の)集大成、集積」をさします。もっと簡単に言えば、例文をデータベースにしたものがコーパスと考えるとよいと思います。

今時の辞書はコーパスを使っているんですねえ。恥ずかしながら知りませんでした。

さてここで一つひらいめいたことがありました。

それは、コーパスを使って辞書が作られているということは、例の英文はどこかから引っぱってきたんじゃないかということです。

ということで、インターネットで調べてみました。

そしたらな~んと、ありました。
Children Of A Lesser God - Transcript

少し長い文章ですがそのページを検索してみたらこんな文があります。
One minute we thought we were a long way off being grandparents and the next minute we felt like we had 14.

まさに辞書にある We were a long way off being grandparents があります。

ここからは三省堂に確認したわけではないので、私の推測であることをお断りして書きます、

辞書の例文はこれを流用した可能性が高いのではと思っています。

インターネット上にある例文の前半はこうです。
One minute we thought we were a long way off being grandparents

つまり、問題の英文は主節ではなく従属節の一部なんです。

主節の動詞は thought ですから、それに導かれる従属節は時制の一致で were になっているものと考えることができますね。ということは、訳する際は現在形になって当然です。

訳してみます。
「我々が祖父母になるのはまだまだ先である、とちょっとの間私達は思った。」

ここまでくるとわかるような気がします。

英和辞典ですから当然、元のデータベースには英文と日本文のペアがあるはず。そして本件の場合、a long way off の項目を作るために抽出したのが、上記の英語と日本語のペアだったのではないでしょうか。

しかし、何らかの理由で主節の we thought は抽出されず、従属節の英文 we were a long way off being grandparents とそれに対応する日本語「我々が祖父母になるのはまだまだ先である」が抽出されたのではと思いました。機械的な処理であれば大いに考えられるものと思います。

さらにインターネットの英文の日付は Monday, 5 April, 2010 であり、ウィズダム第3版の発行は2013年1月10日ということを考えても、時期的な整合性もとれています。

再度書いておきますが、三省堂に確認をとったものではありません。私の推測です。また、ウィズダム英和辞典の質に言及するものでもありません。

ただ、いずれにしても辞書の訳文は誤りだということは明確になったと思います。

今回、このことを記事にしようと思ったのは、コーパスは大変有用なデータベースとはなりうる反面、そこにはどうしても機械処理を伴なうことから、何らかの不具合が生じることもありうる、ということを頭に入れておくことが大切だと思ったからです。

私自身もコーパスを使う時があります。下記は COCA というアメリカ英語のコーパスのサイトです。時々ですが、コロケーションを調べるときに使っています。誰でも利用できて便利なのでにリンクを貼っておきますね。
→ Corpus of Contemporary American English (COCA)

ついでながら使い方を日本語で解説してあるサイトを見つけました。
→ http://www.kenkyusha.co.jp/uploads/lingua/prt/13/UchidaSatoru1408.html

コーパスは上手に使うと英語力アップにつながると思います。
特に Writing に力を発揮します。

ではまた。
Commented by akahoshi at 2015-06-03 12:05 x
いつもありがたく勉強させてもらってます。
今回も大変興味深い内容でした。
思えば2年近く前、アメリカ大使館が首相に対してdisappointedを声明で使い議論になりました。
同盟国に使うには異例で強すぎる、との評価が多かったようです。
個人で使うにも注意が必要なんですね。
これからも日本人が陥りやすい単語などの誤用について取り上げて頂けるとうれしいです。
Commented by ladysatin at 2015-06-03 22:14
akahoshi さん
はじめまして。コメントをありがとうございます。
いつも読んでくださっているとは大変うれしいです。

disappointed は使い方が難しい単語ですね。語感が強すぎるようです。おそらく接頭辞の dis も関係しているかもしれません。disapprove, disagree, disable, disappear など、dis はそれより後ろの単語を打ち消します。dis 付きの単語を使う時はこの点を注意した方がよいかもしれませんね。

disappointed は日常会話で使うことはよくあると思います。期待していた通りにならなくてがっかりすることってありますよね。例えば、レストランの接客が悪かったときや、応援していたチームが負けたときなどは全く問題なく使ってよいと思います。

日本人が陥りやすい英単語の誤用は他にも色々あるようです。私自身の経験もあるので、今後も書いていきますね。

コメントを本当にありがとうございました。
by ladysatin | 2015-05-17 18:46 | 英語と私といろいろ | Comments(2)