日英翻訳のひとコマ

自己紹介でも書きましたが、私は技術翻訳のお仕事をしています。

技術翻訳と聞くとIT とかコンピュータ系の翻訳かなと思われるかもしれません。もちろんそういうのもやります。特にプログラミング関連の翻訳はかなりテクニカルな内容になるので、それなりの知識が要求されます。勉強することも多いのですが、やりがいもあります。

ただこういったものは、私の仕事で回ってくる量としてはそんなに多くありません。というのも、私の勤務先は大手の家電メーカー数社からの仕事の比率が圧倒的に大きいんです。そのため、必然的に私に回ってくる仕事も、整備書や取説が多くなっています。

翻訳といっても、英語から日本語の仕事はほとんどありません。ほぼ100%が日本語から英語の仕事になります。文芸翻訳や映像翻訳と決定的に違うのはそこかもしれません。

こんな感じで日英翻訳を主たる業務にしている私ですが、取引先から英文校正の依頼を受けることも多々あります。翻訳会社に頼めば英語圏のネィティブに英文の校正をやってもらえるのに、日本人の私をわざわざ指名して校正を依頼してくださる企業も少なくありません。

その理由は、私に依頼すると、修正する理由を詳細に記載して返却してくれるからだそうです。私にとっては当たり前のことなんですが、確かに普通は修正した英文を赤ペンで書くだけで、理由まで書くことはしないですね。

私が校正する際に、文法ミスや語法ミスを見つけた場合は、これでは何故だめなのかの説明を記載するようにしています。というのも、こういう作業は、顧客と信頼関係を築く上でとても重要なことだと考えているからなんです。適当に修正したのではなく、明確な根拠をもとに修正したという事実を目に見える形で残すことで、お客様を安心させたい。いつもそう考えながら仕事をしています。

前置きが長くてごめんなさい。

今日は、英作文や日英翻訳をする際のヒントになりそうな内容を取り上げています。日本語を直訳するとおかしな英文になることが多いですが、そんなときは、見方を変えることにより、解決することが多々あります。皆様の参考になればうれしく思います。

ということで、ここから先は英文添削になりますのでズバズバ書いていきます。
おもしろそうだったら読んでくださいね。

私のお仕事のひとコマが垣間見えるかも。 ('-'*)

072.gifキーワードは...簡潔さと整合性

今回の材料として、最近の仕事で受けた翻訳のリライト依頼の中から、3つほどピックアップしました。
内容は、エアコンの運転に関する記述文です。材料の日本文は以下の通りです。

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Material 1
①運転モードが送風になっています。
②省エネ機能は送風時に動作しません。

Material 2
③電源が故障してから1時間以上たって回復した場合、現在時刻情報は喪失します。
④この場合、プログラムは動作しません。

Material 3
⑤体の不自由な方か幼児だけが在室する状況で省エネ機能を使わないでください。
⑥動きが小さい状況では、省エネセンサーが不在と判定し、室内機の運転が停止することがあります。
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さて、①~⑥をどのように訳しましょうか?

※その前に用語について少しだけ...
メーカーによって定訳が存在する場合があります。今回は、差し障りのない言い方で、送風は Fan mode、省エネ機能は energy-saving function、室内機は indoor unit を使うことにします。

ここから先は、まず、クライアントの英文を「修正前」として記載します。
次に翻訳する際の「考え方のアドバイス」と「修正訳例」を記載します。

(オープンにできない固有名詞等はすべて変えていますのでご安心を。)

では Material 1 からいきましょう。

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Material 1
①運転モードが送風になっています。

●修正前 Before revised
The operation mode is Fan mode.

The operation mode is Fan mode. は日本語を直訳した感じですね。言いたいことは間違ってはいません。しかし、翻訳としては合格点はあげられないです。

ここで気付かなくてはならないことがひとつあります。「送風になっています」の主語は何でしょうか?

日本語というのはとてもやっかいです。「魚とお肉のどちらにしますか?」と言われて「私は魚」と答えても自然な日本語ですが、I am fish. と訳す人はいません。

この場合も同じで、「運転モードが」は主語ではないです。日本語では、「運転モードが送風」と書かれていますが、日本語はそのあとに「なっています」と続きます。よく考えてみると、送風モードに「なっている」のはエアコン、すなわち機器本体なんです。だから、主語は「エアコンは」または「機器は」になります。

ここでは「機器が送風モードの状態だ」と書きたいです。この場合に英語で自然な表現をするとしたら The unit is in Fan mode. がそのものズバリです。前置詞は in を使います。

「運転モード」は訳さないんですか?と言われそうですが、送風モードが運転モードのことなので、不要です。

●修正訳例 After revised
The unit is in Fan mode.

②省エネ機能は送風時に動作しません。

●修正前 Before revised
The energy-saving function does not operate during the Fan mode.

「動作する」は確かに operate をよく使いますが、主語との相性を考える必要があります。

operate の主語に来るのは機械や機器がほとんどです。program も主語にきますね。しかし、function と operate の共起は、function が「関数」の意味で使われるときは多くみられるのですが、「機能」の意味の function とはどうも相性が悪そうです。日本語でも「機能が動作する」に違和感がありませんか?機能は「動作する」のでなく「働く」ものです。そう考えると、ここで「機能が動作しない」と言うのであれば is disabled や does not work が的確な表現になるでしょう。

次に「送風時に」も日本語につられて期間を表す during を使っていますが、Fan mode は期間ではないので during は不適切です。ここも前置詞は in にしましょう。

また ①では Fan mode を無冠詞にしているのに、ここでは定冠詞の the を付けているのも一貫性のなさが伺えます。①に合わせるのであれば無冠詞で統一します。

●修正訳例 After revised
The energy-saving function is disabled in Fan mode.

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Material 2

③電源が故障してから1時間以上たって回復した場合、現在時刻情報は喪失します。

●修正前 Before revised
If the power recovered more than 1 hour after the failure, the present time information will be lost.

後半の the present time...のところはよく出来ています。前半は全く意味をなしていません。「1時間以上たって」が訳に反映されていないですね。また、recovered が過去形になっているのも文法ミスになります。

ここも日本語を別の言い方にできないかを考えてみます。

すると、「1時間以上たって回復した」は「回復するのに1時間以上経過した」と同じことだとわかりますね。後者を英文にする方が簡単です。

●修正訳例 After revised
If more than one hour has passed for power return after power failure, the present time information will be lost.

ここで、現在完了の has passed にしているのは、「経過してしまったら」の完了の意味を出すためです。未来の話でもここでは完了形を使います。現在形の passes は不可です。

それと注意したいのが more than one hour の主語を has で受けているところです。「1時間以上」だから have にしそうですが、ここは one hour に合わせて単数の has になります。

④この場合、プログラムは動作しません。

●修正前 Before revised
In this case, the program will not be operated.

ここでは operate を受け身で使っていますが、受け身だと誰かに動作をされているというニュアンスを感じてしまいます。ここは単に、「プログラムは動作しない」ことを言いたいので operate は自動詞で使いましょう。そのほうが文自体もすっきりします。

●修正訳例 After revised
In this case, the program will not operate.

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Material 3

⑤体の不自由な方か幼児だけが在室する状況で省エネ機能を使わないでください。

●修正前 Before revised
Please do not turn the energy-saving function ON in areas only with infants, babies, or people with disabilities.

この文は「省エネ機能をONにしないでください」という英文になっていますが、ここはわざわざ解釈し直す必要はありません。日本語の「使わないでください」をそのまま Do not use...と訳します。

日本語を咀嚼するのは、そのままだとどうしても英文にしにくい場合です。日本語を直訳してきれいな英文になるのであれば、当然そっちを選びます。元の日本文を作った原稿作成者の意図を忠実に再現するためです。

infants と babies はまとめて infants で OK.
people with disabilities はすっきりと disabled persons に
日本語は明確に「在室」と書いてあるので areas は不適です。room を使います。

また、日本人は何かをお願いするときに、丁寧さを出すために Please を付けがちですが、説明書では不要です。命令文にします。

●修正訳例 After revised
Do not use the energy-saving function in a room only with disabled persons or infants.

⑥動きが小さい状況では、省エネセンサーが不在と判定し、室内機の運転が停止することがあります。

●修正前 Before revised
In situations with limited or no human motion, the energy-saving sensor may detect no human activity and turn off the indoor unit.

この英文は、日本文の順番に沿って訳した形跡がみられます。human activity までは英文として成立しています。そのあとの and turn off がまずいですね。というのは turn off の主語が energy-saving function になってしまっているからです。turn off の主語が遠い位置にあるので、目の錯覚でさらっと読めてしまいそうなところですが、よく考えるとわかるはず。省エネ機能自体が室内機を turn off するのではなく、室内機が自ら運転を停止すると考えなくてはなりません。

あと「不在と判定し」が訳出できていません。ここも減点になります。

ということで、日本語を以下のように咀嚼しました。
⑥’ (彼らの)限定された動きのために、省エネセンサーは不在と判定し、(その結果)室内機の運転が停止することがあります。

●修正訳例 After revised
Due to their limited motions, the energy-saving sensor may judge no person is present, causing the indoor unit to stop the operation.

この修正訳例では、causing を最後に使い、結果を表す分詞構文にしています。

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以上、翻訳する際の考え方の一例をあげてみました。

翻訳とは、元の言語を他の言語で正しく表現することですが、言葉の構造が違う日本語から英語への変換作業は簡単ではないですね。日本語にとらわれると、どうしても行き詰ってしまいがちです。

この文は何が言いたいのか、本質は何なのかを常に考える必要があると思っています。原文を作った人の真意を読みとるということです。

やっぱり...他者への思いやり...ここに行き着いてしまいます。
原文を作った人への思いやり、そして訳文を読む人への思いやり...

翻訳は広い意味での英作文になると思います。英文を書くのに行き詰ったときに、「こんなアプローチもあるんだな」って参考にしていただけたらうれしいです。

ではまた。001.gif
by ladysatin | 2015-04-11 20:36 | 日英 Translation | Comments(0)