2014年 03月 30日
やっかいな even
今日はおもしろい英文に出くわしたので取り上げてみました。
ある参考書に載っていたという英文です。
She was discouraged by her failure to win even one game.
この文なのですが、以下の二つの訳のうちどちらが正しいでしょう。
①彼女は1勝すらできなかったので落胆した。
②彼女は1勝し損なっただけで落胆した。
①と②は意味が全く違いますが。。。
私がこの英文を素直に読んでの解釈は①でした。
おそらくほとんどの方が①を選ぶのではないでしょうか。
しかし。。。
参考書に載っていた訳は②だったそうです。
「えっ、訳の間違いでは?」と最初思いました。
参考書も嘘っぱちを書いている場合が多々ありますからね。
でも、色々と調べた末、この英文については①と②の両方の解釈が可能ではないかと思うに至りました。
まず even についておさらいしましょうか。
ジーニアスを引いてみました。even には、比較級を強める用法や、前出の語句の言い換えを強調する用法などいろいろな場合がありますが、この場合にあたる用法は一番オーソドックスな形です。
ジーニアスの1番目にある記載
even - [例外的な事柄を強調して] ...(で)さえ、...すら、...だって、...までも
誰もが知っている even の意味がこれでしょうか。
では、英文に戻ってみましょう。
She was discouraged by her failure to win even one game.
①彼女は1勝すらできなかったので落胆した。
②彼女は1勝し損なっただけで落胆した。
ほら、①には「すら」が入ってますよね。ジーニアスにある意味がきれいに使われています。
一方②は「だけで」という訳が当てこんであって、辞書の意味とはまったく違うではないですか。
でも、そう短絡的に考えていいものか。。。と思っていたら、ジーニアスに面白い例文がありました。
例文)She didn’t even open the letter.
この英文には2通りの解釈できるとあります。
a) 彼女はその手紙を(読むどころか)開きもしなかった。
b) 彼女はその手紙さえ開けなかった。(letter に強勢を置く場合)
つまりa) は even が open にかかっているのに対し、b) では letter にかかっているということです。
ここでわかることは、even のかかる位置は必ずしも直後ではないということなんですね。
今度は even を英英辞典で調べてみました。
●Merriam-Webster
— used to stress something that is surprising or unlikely
●Longman
— used to emphasize something that is unexpected or surprising in what you are saying
上記の内容はほとんど同じですね。
even の意味は surprising, unlikely, unexpected (驚くべき、ありそうもない、予想していない)なことを、stress, emphasize すなわち強調するために使うということなんです。
したがって、英和辞典にある意味「さえ、...すら、...だって、...までも」は、英英辞典の記載に合う日本語として適切な意味が載っているのです。こういう日本語訳がふさわしかろうということですね。
しかし、英英辞典が述べている even は「概念」しかありません。
つまり、「あれ?おかしいな。そんなことありえないでしょ。びっくりするよね。」という気持ちを even で表しているということです。
ということは、そういう気持ちを表すためであれば、解釈はいろいろ可能になります。
こういうこと。。。
She didn’t even open the letter.
a) 彼女はその手紙を(読むどころか)開きもしなかった。
→「手紙来たんだから普通は読むでしょうに。信じられないわ。」という驚きです。
b). 彼女はその手紙さえ開けなかった。
→「たくさん手紙が来ていて、その手紙は一番大切な人からの手紙だった。
その手紙すら開けないなんてどういうことよ。」という驚きです。
では、元の文から even を抜かして書いてみましょう。
She was discouraged by her failure to win one game.
「彼女は1勝できなかったので落胆した。」
この文自体には複数の試合が全敗だと示唆するところはありません。わかるのは、1つの試合に負けて落胆したということだけです。ここに 「驚きや予想外」の気持ちを出すために even を入れてみると、①も②も成立するようです。
She was discouraged by her failure to win even one game.
①彼女は1勝すらできなかったので落胆した。
1勝くらいはできて当然という思いがあったのだが、それができなかった。1勝もできないのは予想外であり「驚き」だったのです。だから「1つの試合すら」という意味が可能となります。
②彼女は1勝し損なっただけで落胆した。
1勝できなかったくらいで意気消沈することは考えられなかった。まだあと何試合か残っているのだから、「たった1つの試合」に負けた程度で意気消沈するなんて、という「驚き」の気持ちが表れていると思います。
では、only や just にすればよいではないかという意見もあるでしょう。確かにこれらの語も強調のために用いられますね。しかし、only や just では「驚き」や「予想外」という主観は表現できないのです。ここが決定的に違うところと言えそうです。
単語の意味を覚えるときに、私達はつい英和辞典に頼ってしまいがちですが、やはり最終的には英英辞典で確認するということが大切だと再認識しました。apple がリンゴ、book が本というふうに、1対1で対応するものばかりだったら苦労はしません。英語の概念を汲み取った上で、何が言いたいのかを掴むということがいかに難しいことかを感じます。
私自身、これまで even ときたら「~ でさえ」と直結して考えていたので、大いに反省した次第です。
ではまた。
先週は大変忙しく、ブログを更新できませんでした。短納期の仕事が入ってしまい、週末も家で仕事です。
Yuさんも新学期の準備でお忙しいことと思います。
少し暖かくなりましたので、外の景色を楽しみたい今日この頃ですね。