These Dreams – Heart 訳詞考察

今日は These Dreams の詞を考察します。
ここの表現は気になるなあというところだけピックアップします。

全訳はこちらをクリックしてくださいね。
→ 訳詞の世界~These Dreams – Heart(和訳)

では、まず最初のところ。。。

Spare a little candle
「小さなキャンドルをとっておいてね」

ここはCDの訳では「ロウソクを少しとっておいて」になっていました。
a little を副詞句と考えたのですね。
しかし、そうであれば、ここは Spare a little a candle となるはずです。
この文は単に little が形容詞として使われているだけなので「小さなキャンドル」になるでしょう。

ところで、spare という単語は簡単なようで、なかなか使いにくい単語だと思いませんか?
日本語では「スペアの鍵、スペアのタイヤ」のように「予備の」という意味の形容詞として使いますが、英語では形容詞のほかに、動詞でもよく使います。

ジーニアス英和大辞典における spare の第一義がこれです。
「(人・物・事)をなしですます、(物・事)をとっておく、与える」

例文1)I can’t spare her today.
「今日は彼女がどうしても必要だ」

例文2)Spare your energy for the finals.
「決勝戦のために体力を温存しなさい」

今回の Spare a little candle は、例文2と同じ使い方のようですね。

Figures up ahead
Moving in the trees

「少し先に見える人影が木々の間を動いているわ」

この文は moving が現在分詞となっていると考えると、本当は後ろから修飾したほうがいいのかもしれませんが、修飾語句が長すぎると不恰好なので、ここは頭から一文として訳しました。

ここでの figure は「人の姿、ものの姿、人影」でいいのですが、この figure という単語は幅広い意味があるので注意したほうがいいかも。

「数字」を意味することもあれば、「図」を意味することもあります。
私は実務翻訳をするので、figure という単語は毎日のようにお目にかかっています。

口語でよく使う表現に figure out 「~を理解する、~がわかる」があります。

英辞郎より例文
I can't figure out what's behind it. : 原因がよく分からないんですが。
I can't figure out how to do it. : それをどうすればよいのか分からない。

蛇足ですがフィギュアスケートの figure は「氷上を滑りながら描く図形」のことなんですって。
これもジーニアス先生に教えてもらいました。^^

★I search for the time on a watch with no hands
「針のない時計の上で時を探す」

この文は難しくありませんね。
hands は時計の話になると「針」のことを指します。
長針と短針があるからここは複数形。

そうそう、search にはここでは for が必要ですね。
自分が求めているものを探すときは search for になり、場所を探すときは search だけで for はいらないですね。

search the room ... この場合は、部屋の中に指輪か何かなくしてしまったときに使います。
search for the room ... 求めている部屋を探すという意味になります。

****************************
These dreams go on when I close my eyes
Every second of the night I live another life
These dreams that sleep when it's cold outside
Every moment I'm awake the further I'm away

目を閉じるとこれらの夢が続くの
夜を刻む一秒一秒を私は別の世界で生きている
外の世界が寒いときは眠りにつくこれらの夢
目が覚めている瞬間瞬間が長くなるにつれ
私は夢から遠ざかる
****************************

ここはコーラスの部分です。

these dreams は直訳で「これらの夢」としました。日本語として変でない限り、私は原文通りに訳す主義ですが、それだけでなく、ここは直訳する必要がありました。というのは、ここであえて、these としているのは、夢の中の一場面、一場面を完結したものとしてとらえて、数えているからなんですね。

すなわち this dream がいくつか集まって these dream が形成されていることを明示しているところです。

these dreams は such dreams(そんな夢)でもなく、the dreams(その夢)でもないのです。

そして、These Dreams はタイトルですから、極めて慎重に訳す必要があると考えました。だから、「これらの」という訳をあえて入れています。

★Every moment I'm awake the further I'm away

この文なのですが、何となくThe + 比較級~, the + 比較級の構文に似ていませんか。
Every moment I'm awake の節と、the further I'm away の2つの節があり、後ろの節に the further がありますね。

ただし、前の節は Every moment ですから、比較級はどこにもありません。しかし、この文は形は違いますが、まぎれもなくThe + 比較級~, the + 比較級の構文と同じ意味で訳す必要があります。

「~すればするほど、ますます…」という比例関係を表しています。

Every moment I'm awake...
CDの訳は「目覚めるたびに」となっていましたが、ここはそういう意味ではありません。動作ではなく、状態を表しています。すなわち「私が目覚めている一瞬一瞬」という意味です。そして、その一瞬一瞬が積み重なって時を形成していきます。つまり、その時間が次第に長くなるさまを語っています。そうなるにつれ、the further I'm away 「私はますます遠くへ離れていきます」と言っています。

★Is it cloak and dagger
私の訳「スパイ映画なのかしら」

この表現は知りませんでした。
Cloak and Dagger は1946年のスパイ映画で、邦題は「外套と短剣」というそうです。
Wikipediaによると「外套と短剣(がいとうとたんけん、クローク&ダガー、Cloak and dagger)とは、スパイ・ミステリー・暗殺といった要素を内包するシチュエーションを言及する言葉。」とのことでした。

おもしろい表現があるんですね。(^^)

では最後のパートで気になる表現をピックアップ。

★There's something out there I can't resist
ここは「あそこにある何かが私を引きつける」と訳しましたが、ここは関係代名詞節だから後ろから訳してももちろんOKですね。「私が抵抗することができないものが、あちらにあります。」が原義。

out there は口語表現でよく出てきますね。
ここでは文字通り「あちらには、向こうには」の意味ですが、out there には成句で「世の中には」という意味もあります。

ジーニアスより
There are still a lot of racially-biased people out there.
世の中にはまだ人種的偏見を持っている人がたくさんいる。」

ついでに in there は米俗で「全力で」という意味があります。
おなじみの「 Hang in there. 頑張れ。」はここからきているようです。
Keep in there. Stay in there. も同義。

★The sweetest song is silence that I've ever heard
「静寂はこれまで聴いたなかで最も甘美な歌」

この部分が今回の目玉
というのは The sweetest song を誰もが主語だと思ってしまうので誤訳しやすいのです。
一見それでよさそうなのですが、ここの事実上の主語は補語のふりをしている silence です。

なぜかというと。。。

元の文は実はこれなのです。
⇒ Silence is the sweetest song that I've ever heard.

この形は中3で勉強するかな。
最上級を現在完了で後ろから修飾している構文です。

たとえば、こんな文を昔よく作りました。
①She is the most beautiful woman I have ever met.
「彼女は私がこれまで会った中で最も美しい女性です。」
②This is the most interesting book I have ever read.
「これは私が読んだ中で最も興味深い本です。」

注意すべきは、①も②も主語と補語をひっくり返すと意味が通らず、非文になってしまうところ。
しかし、この曲ではあえてひっくり返して The sweetest song is ... と非文の形にしてあるのです。

これもなぜかというと。。。

おそらく The sweetest song is silence で、いったん倒置の形にして文を完結してしまったのでしょう。ここまでだと全く問題ありません。そして、そのあとに that I've ever heard を補足情報として追加した雰囲気を出したのだと思います。さらに、この音楽にのせて歌うには普通の構文では歌いにくいですものね。

★In a wood full of Princes, freedom is a kiss
But the Prince hides his face from dreams in the mist
「王子様でいっぱいの森の中では自由とはキスを意味するの
だけどその王子様は霧の中の夢から顔を隠してしまう」

最初のPrinces は複数形だから王子様がたくさんいるということなんだと思います。
その中に意中の王子様がいるのだけど、その意中の王子様は顔を隠してると言っています。
何とまあ、かわいらしい詞だったのですね。(*^^*)

これで These Dreams の訳詞解説は終わりです。

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Commented by asace at 2020-05-21 23:21 x
記事を読ませていただきました。these dreams いいですよねぇ。
私のBESTは1986年のNHKホールでのthese dreams。歌い方がやや粗っぽいんですが、ずーっと聴いていられます。
Commented by ladysatin at 2020-05-23 17:47
asace さん
コメントをありがとうございます。
1986年にコンサートに行かれたのですか。私は Heart はとうとう観ることができませんでした。うらやましいです。Ann と Nancy は私にとって憧れの存在です。
Commented at 2020-05-24 20:01 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Tohru at 2023-01-05 13:34 x
はじめまして。
昔カナダの大学院で言語学の勉強をしたことがあり、現在は日本でフリーランスの英語講師をしている者です。
洋楽の訳詞を幾つか見させて頂きましたが、いずれもすごく丁寧に訳されていて、とても好感を持っています。
ただ、HeartのThese Dreamsの歌詞の和訳で一つ気になるところがあったので、コメントさせて頂きます
それは以下の部分の解説です。
The sweetest song is silence that I've ever heard
これを倒置が適用された結果と解釈していらっしゃいますが、私は別の見解を持っています。
まず、、この文の元々の形は以下のような形。
The sweetest song that I've ever heard is silence
「これまで聞いた中で最も甘美な歌は静寂」
これに、言語学で言うところのextrapositionという操作が適用される。
extrapositionというのは、文の構成要素が長ったらしい場合に、その一部(例えば、関係節など)を後ろに回す操作のことを言います。
例えば以下の例では、上が元々の語順の文で、下がextrapositionが適用された文になります。
Anyone who wants to celebrate Christmas with us is welcome.
Anyone is welcome who wants to celebrate Christmas with us.
「私たちとクリスマスをお祝いしたいと思っている人は誰でも歓迎です。」
即ち、The sweetest song that I've ever heardという主語があまりにも長いので、関係節を文末に移動させたということです。
私は、補語の一部だけが倒置されたと考えるのには少し無理があると思うのですが、いかがでしょうか?
Commented by ladysatin at 2023-01-05 15:53
Tohru さん
初めまして。コメントをありがとうございます。

「The sweetest song that I've ever heard という主語があまりにも長いので、関係節を文末に移動させた」という Tohru さんの考えが正しいと思います。

この記事は9年前に書いたものなのですが、今読み返すと確かに無理がありますね。関係詞節を単に後ろにもってきただけなのでめずらしい形ではありませんでした。

この部分はあとで書き直すか削除したいと思います。
ご指摘ありがとうございます。
Commented by Tohru at 2023-01-07 10:51 x
お返事ありがとうございます。
これからもこのサイトを時々覗かせてもらおうと思っているので、どうぞよろしくお願い致します。
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by ladysatin | 2013-12-24 21:17 | Music & English_3 | Comments(6)