恩を返す

昨日、浅田真央さんの引退のニュースを知りました。
今日もずっと浅田真央さんのことがテレビやネットで流れていました。
本当に日本中の人から愛されていたんですね。

以下は、2014年 02月 22日に、浅田真央さんについて書いた記事です。
まだブログの読者が少なかった頃の記事なので、読んだ人はあまりいないと思います。
今回のニュースを受けてトップに移動しました。

ソチオリンピックのショートプログラムで16位と出遅れながらも、フリーで完璧な演技を遂げた浅田真央さん。
鮮やかすぎる復活の裏に何があったのでしょうか。
今読み返すと、また心に響くものがあります。

毎日新聞の英語版です。
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2014年 02月 22日

今日は、久しぶりに英文精読の話題です。

英字新聞を読むのはまだ苦手という方も、旬の話題だと興味がわくかな?と思いまして、浅田真央選手に関する記事を選んでみました。

英文を読むときに、背景知識のある内容かそうでないかによって、読むスピードは全く変わってきます。長文を読む力をつけるとともに語彙力を付ける方法のひとつが、こうした直近の話題の記事を読むことだと思います。

ところで、浅田選手のフリーの演技は、多くの人々に感動を与えてくれました。私ももちろんテレビで観まして、この人は別格だと思いました。他のスケーターの方々もそれぞれに素晴らしいのですが、浅田選手はどこか別次元にいる人のように思えました。神がかりといったら大げさかもしれませんが、後光がさしているかのように輝いていました。

浅田選手はフリーのあとのインタビューで「私なりに恩返しができたと思います。」と言いました。

まだ20代前半の浅田選手が「恩返し」という言葉を発したのを聞いて、ちょっとどきっとしました。

「恩を返す」という言葉は簡単には使いません。「感謝」という言葉はよく使われますが、「恩返し」は「感謝」の先にある言葉です。よほどのことをしていただいたという思いが、彼女の中にあったのでしょう。

「皆さまが私のためにしてくださったことの数々、それらに報いるにふさわしい内容の演技で、私は皆さまにお返しいたしました。」

その思いが浅田選手の「恩返し」という言葉となって出たのでしょう。

さて、以下の英文記事の中にも「恩返し」が英語で出てきます。
どんな英語になっているでしょう。
一緒に読んでみませんか。

以下、毎日新聞の英文記事から抜粋します。
http://mainichi.jp/english/english/newsselect/news/20140221p2a00m0sp012000c.html

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Mao Asada cries tears of joy despite 6th place finish
浅田真央 - 6位でも喜びの涙


SOCHI, Russia -- Mao Asada finished her performance with her head held high. Then she lowered her gaze and tears welled up in her eyes. As the crowd at the Sochi Winter Olympics roared and applauded, she couldn't stop sobbing.

ソチ・ロシア - 浅田真央選手は、頭を高く上げ演技を終えた。その後、視線を落とすと、涙がこみ上げてきた。冬季オリンピックのソチの観衆の歓喜の声と拍手の中で、彼女は泣くしかなかった。

Back in 2010, Asada had won silver at the Vancouver Olympics but was not satisfied with her performance, which had left her frustrated. She had spent the next four years honing her skills.

2010年を振り返ると、浅田はバンクーバーオリンピックで銀メダルを獲得したものの、自身の演技に満足できてはおらず、そのことが彼女の心にわだかまりを残していた。その後4年をかけ自分の技術を磨いてきたのだ。

After the short program at the Sochi Games, she placed a disappointing 16th. But in a brilliant comeback in the free skate, she lifted her position to come third and finish sixth overall. One episode after another came to her mind and she started to cry.

ソチのショートプログラムの結果は期待はずれの16位。しかし、フリースケートでの見事な復活で3位まで順位を上げ、最終的には6位だった。これまでの出来事が次々に思い出され、彼女は泣き始めた。

Asada began to remember the many emails she received the previous night from people who wrote that they wanted to see her smiling face. She smiled through her tears of joy: The free skate on Feb. 20 was her personal best.

浅田は、前の晩に届いた多くのメールを思い起こし始めた。それは彼女の笑顔が見たいと書いてきた人々からのものだった。喜びの涙を通して彼女は笑顔を見せた。2月20日のフリーは自己最高のスコアだった。

A night before, Asada had been on the same ice at Iceberg Skating Palace, finding herself in the depths of despair due to a stumbling short program performance. "My body didn't move," she recalled. During official morning training, she was in the same mood.

前の晩、浅田は同じアイスバーグ・スケート・パレスいた。ショートプログラムの演技での転倒を受け、深い絶望感の中にいた。「身体が動かなかった。」ことを彼女は思いおこした。朝の公式練習では、同じ思いを引きずっていた。

Her coach Nobuo Sato, 72, raised his voice. "The short program is about getting 70 points; the free program is about getting 140. Give it everything you've got!" he bellowed.

佐藤信夫コーチ(72)は声を荒げ、「ショートは70点。フリーは140点ある。持っている力をすべて出しなさい!」と怒鳴った。

After morning practice, Sato started talking about Mitsuru Matsumura, 56, who was one of his students and who competed in the 1980 Lake Placid Olympics. "His tonsils flared up after the short program but he proceeded to compete in the free program although he could not practice or eat," Sato told Asada. "I told him, 'If you collapse, I will rush into the rink to help you. Skate until you fall down.' He gave the best performance in the free program."

午前中の練習の後、佐藤コーチは、自身の教え子で1980年のレイクプラシッドオリンピックに出場した松村充氏(56)のことを話し始めた。「彼はショートプログラムの後で扁桃腺が悪化し、練習をすることも食べることもできなかった。しかし、フリープログラムを全うした。」と。「彼に言ったんだよ。『君が倒れたら、私がリンクまで走って助けに行く。倒れるまで滑るんだ』と。彼はフリーで最高の演技をしたよ。」と、佐藤コーチは浅田に言った。

Sato's talk had a sobering effect on Asada.
佐藤コーチの話は、浅田の気持ちを落ち着かせる効果があった。

"I'm not sick. I definitely can do it," she thought.
「私は病気じゃない。絶対できるはず。」と、彼女は思った。

"I could not produce a result in the form of a medal but managed to perform to the fullest. I was able to return the favor in my own way." Asada said, reflecting upon her success in translating her coach's advice into her brilliant performance.

コーチのアドバイスが彼女の素晴らしい演技につながったことを振り返りながら、浅田はこう言った。「メダルという形の結果を残すことはできませんでしたが、全力で演じきりました。私なりの恩返しができました。と。

February 21, 2014 (Mainichi Japan)
2014年2月21日(毎日新聞)

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以上です。
日本のメディアで報道されている内容ばかりなので、わかりやすかったかと思います。

私は、こういう大きなニュースのあとで英字新聞をチェックするのが好きです。大体翌日には、日本の報道と同じ内容の英文記事が出ています。その日英の記事を比較すると、直訳ではなく自然な英語が学べることがあります。

例えば、以下は実際に浅田選手がインタビューで答えた言葉です。

「こういうオリンピックという大きな舞台で、日本代表としてメダルを持って帰ることは出来なかったと思うんですけど、自分が目指しているフリーの演技が今日できた。結果としては良くなかったと思うけど、私なりの恩返しができたかなと思います。」

「結果としては良くなかった」を直訳すると The result was not good. とか It was not good as a result.になりますが、ネィティブのライターの文は、上にあるように I could not produce a result.ですね。

なるほど、result を目的語にして動詞は produce が使えるのだなとわかりますね。日本語をそのままではなくて、英語では発想を転換して考えてみる。そういう習慣を付けることで、より自然な英語力もつきます。

「私なりの恩返しができた」 - これは難しいと思いました。

ネィティブのライターはこう訳しました。
私なりに - in my own way
恩返し – return the favor


「恩返し」については、他の新聞記事では pay back を使っているところもありましたが、私は毎日新聞と同じ return the favor を真っ先に思いつきました。pay back も間違いとまでは言えませんが、pay という単語のもつ語感がどうもそぐわない気がするのです。個人的感覚なので、表現の好みの問題かもしれません。

余談ですが、昔、一緒に勤めていた外国人の部下が、帰国する前に手紙をくれました。その手紙の最後に、"I hope to return the favor someday."と書いてくれていました。そのときのことを思い出しました。return the favor というフレーズは、日本語の「恩返し」に一番近いような気がしています。

最後は、浅田選手の美しい笑顔を見ることができて、本当によかったですね。

浅田真央さん、ありがとうございます。
# by ladysatin | 2017-04-11 23:01 | 英文精読_Reading | Comments(4)

少し前ですが 一翻訳者としての思い という記事の中で、「翻訳は英作文ではない」という私見を述べました。

日本語から英語に訳すにあたり、英作でなく翻訳をするということはどういうことなのでしょう。

今日は、過去にあった一例を取り上げてみたいと思います。

※ここから書く内容は、プロの翻訳者の方には特に目新しいことではないかもしれません。
 翻訳者ではないが翻訳に興味のある方、これから日英翻訳者を目指す方の参考になればと思い書きます。

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数年前の取引先からの依頼でした。当時、あるメーカーが浄水器の英文パンフレットを作成していたところ、そこに英文を一文だけ追加することになり、それを訳してほしいとのことでした。

その取説に載せる文言とは以下です。

<日本語>
NSF認証は米国の国家規格として採用され世界中に認知されています。


いきなりこれだけ。この時は途中経過のパンフレットの原稿をもらうことができなかったので、挿入箇所もわかりませんでした。よくあることですが、何の文脈もわからず、この日本語を英訳してほしいという依頼がよくきます。

ではここで、英文を作ってみたいと思います。直訳でそれなりの体裁を保った英文を作ることができます。

<試訳>
The NSF certification has been adopted as a national standard of the U.S. and is recognized all over the world.


実はこの英訳は私のものではなく、当時の同僚で翻訳者志望の人が書いたものです。その人の英訳はいつも私がチェックすることになっていて、この英文も私のところに回ってきたものです。

さて、この英文は元の日本語を適切に訳せているのでしょうか。

「認証」を certification とし、「採用され」を has been adopted で表現しています。「認知されています」は is recognized です。文法も時制も正しく書かれています。英文としては何らおかしいところはありません。英作文としては100点だと思います。

しかし、翻訳としてはどうでしょうか。

実は私、この時点では、良いのか悪いのか評価ができませんでした。というのも気になることが2つあったからです。

その2つとは以下です。英文を作った人に聞きました。
①仕向け地(製品が輸出される国)はどこですか?
②NSF 認証について調べましたか?


するとその人から①については「知りません」、②については「調べていません」という答えが返ってきました。私は「英文としては正しく書かれているけれども、①と②を調べて、これで間違いないと思った訳を書いてくれないか」と言いました。その人は私の言葉に困惑したようです。「英文が正しければそれでいいのでは」と思ったんですね。その気持ちはわからないでもありません。

ではここから具体的に切り込んでいきます。

①仕向け地(製品が輸出される国)はどこですか?
私がこれを聞いた理由は、英文の中に recognized という表現があったからです。通常、学校英語ではアメリカ英語を学びます。だから recognized はアメリカ英語のスペルとしては正しいのですが、イギリス英語は recognize でなく recognise と綴るのが普通なんですね。

このパンフレットが北米向けなら recognized で結構です。しかし欧州向けなら recognised にすべきです。案の定、調べたら欧州向けのパンフレットでした。ちょっとしたことですが、かなり大切なことです。ここは確認を怠った翻訳者のミスになります。

以前の記事でも書きましたが、翻訳にはお客様がいます。きれいな英文をささっと書いて終わるのは、ただの自己満足の英作文です。この英文を書いた人には、翻訳を読むお客様は誰なのかについての視点が欠如していたものといえます。

②NSF 認証について調べましたか?
NSF はおそらく何かの認証機関なのかなと想像がつきますが、実際に何を認証するところなのかを調べる必要があります。工作機械や電子機器の安全性を認証する規格としては、CSA やUL などが私の分野にはよくでてきます。今回の NSF は、英訳した人にとっても私にとっても初めて聞く認証機関でした。自分の知らないことを翻訳しなくてはならない場合は、出来る限り調べることを私はお勧めしています。NSF certification は一般的な訳語としては使えますが、さらに調べることで、より適した表現に出会えるかもしれません。あとで書きますが、今回もそうでした。

まず、NSF をインターネットで調べてみました。すると、NSFとは公衆衛生に関連した製品やシステムの規格開発・認証機関であるNSF (National Sanitation Foundation) International のことだとわかりました。NSF 認証は浄水器の世界基準であり、厳しい審査を通過した製品に与えられる認証なのです。

NSF が何かわかったので、上の日本文の言いたいことがわかりました。この浄水器は NSF 認証を取得していることが一つの売り文句なのでしょう。でも NSF 認証がどんなものなのか一般のユーザーにはわからないので、立派な機関のお墨付きであることを、この文を入れてユーザーに知らせたいのだろうと推測できます。

文章が長くなりましたので、もう一度日本語と試訳を書きます。

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<日本語>
NSF認証は米国の国家規格として採用され世界中に認知されています。

<試訳>
The NSF certification has been adopted as a national standard of the U.S. and is recognized all over the world.

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前半は、「NSF認証は米国の国家規格として採用され」に対し、"The NSF certification has been adopted as a national standard of the U.S."という直訳がついています。この箇所は致命的なミスはないので、これをそのまま使うという選択肢がひとつあります。

しかし、私にはこの英語がとても冗長に感じられました。日本語では「採用され」とありますが、そもそも言いたいことは何かというと、「NSF認証は米国の国家規格である」ということです。とすれば、もっと簡潔に書けます。また The NSF certification は、定冠詞のないケースがほとんどのようです。これらを考慮すると、以下のように書けます。

<修正前>
The NSF certification has been adopted as a national standard of the U.S. (13 words)

<修正後1回目>
NSF certification is a national standard of the U.S. (9 words)


13 words から 9 words に節約できました。

ここからさらに調べていきます。すると NSF/ANSI standards という正式な言い方があることを発見しました。ANSI は American National Standards Institute の略です。NSF は ANSI に認可された機関なのです。NSF certification という言い方も多く見つかりましたが、ここはプロフェッショナルな言い方として、NSF/ANSI standards を使いたいです。standards が複数なのは、standard すなわち「規格」が複数あるからなんですね。

さらに、American National Standards とあるので、a national standard of the U.S. という言い方もこれに変えたほうがいいです。では NSF/ANSI standards を主語にして書きます。

<修正後2回目>
NSF/ANSI standards are American National Standards (6 words)


さらに 6 words に削減できました。

今の世の中、インターネットを利用すれば解決できないことはない、とまでは言えなくとも、実に正確な情報を手に入れることができることがわかります。

さて、ここからまとめていきます。

日本文には「世界中に」という文言がありました。最初の訳では all over the world と訳されていました。ここはすっきりと、worldwide と一語で書けます。それに recognised とイギリス英語のスペルにして完成させます。どのようになったでしょうか。

<試訳>
The NSF certification has been adopted as a national standard of the U.S. and is recognized all over the world. (20 words)
 ↓↓↓
<最終訳>
NSF/ANSI standards are American National Standards, and are recognised worldwide. (10 words)


何と、最終訳では語数が半分(20 words → 10 words)になりました。この訳文をお客様に納品しました。

ここまで読んだ方の中で、「standards は「認証」ではなくて「規格・基準」だから間違いだ」、また「日本語の「採用され」が訳されていないから間違いだ」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは英作文として見た場合のことです。大学入試であれば点数をもらえないですよね。

私は、翻訳は元の日本語を一字一句訳する作業ではないと考えています。原文の本質を、明瞭にかつ簡潔に、別の言語で表現する作業、それが翻訳だと思っています。少なくとも私が携わっている技術翻訳においては重視すべき点だと考えます。もちろん、直訳以外に選択の余地がない場合も多くあります。しかし、直訳に甘んじてしまうと、翻訳者としての成長はそこで止まってしまうような気がします。

もっと良い言い方はないか、もっと簡潔に書けないかと常に考えつつ、翻訳の仕事を続けていきたいです。
そうすることで、もっと自分が翻訳者として成長できると信じて。

終わり 001.gif
# by ladysatin | 2017-03-14 00:43 | 日英 Translation | Comments(4)